ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

まだ春の入り口[2023年3月1日(水)晴れ]

目覚めたら3月だった。午前中は相変わらず布団から出られない。今日は9時半からオンラインで打ち合わせがあるので、それまでに身支度ができるように逆算して起きた。おかげで9時半までに起きられた気がするし、かえって9時半に間に合えばいいや、と思って怠けてしまった気もする。いっそ8時半とかに打ち合わせを設定してもらえたらいいのだろうか。あまりにも身勝手だから現実的ではないけれど。

 

打ち合わせ後に原稿を書きはじめるなら執筆が終わるのは昼過ぎになっちゃうな、午前中には終わらせたかった、と焦りながらGoogle meetを立ち上げる。定期ミーティングなのだが思いのほか話すことがなく、30分未満で終わった。よかった、と思って原稿。昨日のうちにざっくり書いておいたので、今日は頭から整えていく作業。ほぼ完成したので、一応明日見直して提出する予定。恋人と一緒に冷凍うどん、そしてSEIYUで買ったお得用の冷凍鶏団子(伊藤ハム)をチンして食べる。

午後は昨日収録したポッドキャストの編集作業。今回は一人で喋っているのだけど、聞き返すと自分の息を吸う音が気持ち悪く感じられて、途中から細かくトリミングしはじめてしまう。ポッドキャストはざくっと録ってそのまま出すなら大した手間にはならないのだけど、こういう細かい作業をはじめるといきなり無限の時間がかかるようになる。

編集時は音声の波形を見ながら作業するのだけど、こうして視覚化されるからよけいに気になるのだろうと思う。無音のところをトリミングして詰めないと不安になるのもおそらく同じ理由。(多くのリスナーと同様に)流し聞きしていれば1〜2秒程度の無音なんて気にならないだろうに、波形が沈黙しているとすごくダメなことをしている気になってしまう。こういう自分の些細なこだわりがクオリティにどれだけ貢献しているのか疑問だ。馬鹿馬鹿しいなー、と思いつつ編集してしまう自分が何より馬鹿馬鹿しい。早くどうでもよくなりたい。

 

編集を終えて音声をアップロード。メールをチェックしていると、今月下旬に出演するイベントの主催者から「お陰様で満席になりました」と連絡が来る。ほっとしつつ、ポッドキャストでそのイベントの告知もしていたのでその部分の音声を削除し再びアップした。1月から2月は人前に出たり告知できる仕事があまりなかったのだけど、今月以降は色々と控えている。それらはいわゆる自分の本の「刊行記念イベント」とは違うもので、ということは書き手としての立ち位置も少しは変わったとみていいのでしょうか、などと考えたりする。慢心するのもよくないけれど。

 

企画書を書き、日記を書く。気圧のせいか胸のあたりだけ重力が強くなったみたいな苦しさがあり、気分が滅入ってくる。無視するように日記を書くが、あまりまともな言葉の羅列にならない。集中できなくて文章が飛躍してしまう。

いつの間にか部屋が暗くなっていたので電気を点ける。米を炊き忘れていたことに気づいて、急いで炊飯。豆腐とわかめ、みょうがのみそ汁、サラダを作る。米が炊けたタイミングで昨日作った豚キムチを温めて夕飯。夕飯の支度をしているうちに胸のあたりの苦しさは消えた。

 

夜は滝口悠生『ラーメンカレー』を読む。滝口さんの小説のこの、何も起こっていないのにすべてが奇跡みたいに思えてくる筆致は本当にすばらしい。胸がいっぱいになる瞬間を捉えていて、そしてそれがずっと続く。やたらと感動しがちな人物が持つ純粋さ、危うさ、間抜けさ、そういうものがやさしく束ねられ、心に運ばれてくる。それでいて今作、特に後半の「窓目くんの手記」シリーズはユーモアも炸裂していて、クライマックスに向かう中で何度も爆笑した。まだ春の入り口にさしかかったばかりだけど、今のところ今年ベストの一冊。暗いニュースが多いけど、こういうふうに好きだなあとしみじみ思える作家がいて、その人がこれからもきっと新作を書いてくれるというのは希望だなと思う。

「キスしてほしい」という短編が収録されていて、そのタイトルはブルーハーツの楽曲に(も)由来している。物語のなかでこの曲が歌われるシーンが、そこに重ねられる登場人物の記憶が本当によくて、聴きたくなってApple Musicを検索してみるもヒットしない。ブルーハーツはサブスクにないんだな、とYouTubeで検索するとMVがヒット。アニメのMVなんだけど、かわいすぎる! テンションが上がってインスタのストーリーとマストドンに投稿した。