ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

通り過ぎて[2021年11月19日(金)晴れ]

9時前、新しいZINEが印刷所から届く。はじめて利用する印刷所で、色校を出さなかったので少しどきどきしながら開封する。開けた途端、鮮やかな黄色がはっきりと目に入って安心した。ディスプレイで確認していたものと同じだ。

さっそく写真を撮ってMに送る。すぐに返信が来て、「アラベール(紙の種類)独特の表面のテクスチャが効いてていいのでは」とのこと。今回のZINEは表紙に使っているフルイドアートを一緒にやったり、Zoomをつないで私があれこれ好きなことを言うのを画面共有しながら反映してもらったり、一緒に作った実感が前回よりも強くあった。そのぶん思い入れも強い。

自分みたいな無名の人間の日記を手に取ってくれる人は多くないし、一見さんに届くかどうかはデザインとタイトルがほぼすべてを決めると思っている。今回はけっこうインパクトがあるデザインだけど、どうだろう。緊張するけど楽しみ。

 

校了が迫っている雑誌の作業。原稿を書く以外の細かい作業が多く、なんだかんだで午前中をまるっと使ってしまった。午後からは、ZINEにつけるあとがきのようなテキストを書く。なんだか日記に書いたことを裏切るような内容になっている気もして、果たしてこれをあとがきとしてつけるのが正解なのかがわからない。今度は日記じゃない文章をまとめたものが作りたいと思っているから、そっちに収録したほうがいい気もしている。迷うけど、完成させておけば土壇場でやめることはできるし、と思ってとりあえず書いておく。

 

17時半から1ヶ月ぶりに肛門科の病院へ。待合室にはもみの木が飾られ、オルゴール調のクリスマスソングがずっと流れている。もうそんな季節なのかと動揺。なぜかいろんな年のクリスマスのことを一気に思い出してしまい、若干情緒が不安定になる。

経過は順調だそうで、「次で最後にできるかどうか、ですね」と先生。手術やその後のケアは大変だったけど、コロナでなかなか出かける機会も少ない中で通院がちょっとしたリズムを作っていた側面もあり、終わるとなると少し寂しい。最初に病院に来たのは5月のことだった。

 

病院のすぐそばには有名なパン屋があって、いつもは行列ができているけど今日は誰も並んでいなかったのではじめて入ってみる。終わりが近づいてちょっと寂しくなったことも背中を押したと思う。夕方だったので、人気のパンは売り切れてしまっているよう。フランス食パンや、チョコが練り込まれた小さめの角食パン、あんバターフランスなどを買う。どれも中身が詰まっていて、ずっしりと重い。明日恋人と一緒に食べようと思う。

 

ポッドキャストのOVER THE SUNで「みんなでヒヤシンスを育てよう」というプロジェクトが動き始めていて、私たちも育てたいと思っているのだけど、なかなか球根が手に入らない。「#ヒヤスンス」を探して新宿の京王百貨店の屋上にある園芸店を覗いてみるも見つからなかった。今日最新回が配信されたと思うけど、せめて球根が手に入るめどが立ってから聞きたい。別のものにしようと考えていた時になんとなく思い当たって、久しぶりにエイミー・ワインハウスを聴いた。新宿の街を歩きながら聴く。世界堂へ向かう途中、flagsのあたりに人だかりができていて、みんながスマホのカメラを構えている。何かと思って見上げると、薄い雲にまぎれておぼろげな月が浮かんでいる。今日は(ほぼ)皆既月食なのだった。

人通りの多い新宿を歩きながら、自分も時々見上げてみる。街灯の強い光がまっすぐ目に入って見失うこともあったけど、その感じも含めて東京で見ている感じがした。世界堂であとがきを印刷するための紙を探して(せっかくなので表紙に合わせて黄色い紙に印刷したい)、別の用事で高島屋のほうへ歩く。途中、路地でスマホを構えている人がいたので視線の先を見てみるとやっぱり月蝕で、だけどさっきよりも月が膨らんでいる。

 

その後も建物に入って用事を済ませて出るたびに、移動するたびに月を探した。最初の頃は誰かがスマホをかざしているから見つけやすかったけど、ある時カメラの先を追ってもただビル群とか「JR新宿駅」の看板があるだけ、ということが続いて、自分で夜空を探す。どこも欠けていないただの月が浮かんでいた。