ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

同じ時代を生きている[2022年10月14日(金)曇り]

ちょっと寝坊したので朝ごはんも食べず、シャワーも浴びずに仕事に取り掛かる。少し前に「シャワーを浴びた方が頭がしゃきっとして仕事がしっかりできるから、どんなに朝出遅れても浴びるようにしよう」と日記に書いた気がするのだけど、またスキップしてしまった。今日は「昨日プールのあとに体洗ったし」というのを大義名分にしていた。以前行っていたプールはシャンプーやボディソープの使用禁止だったのだけど、使用可のところに行くようになってからこういう新しい言い訳を使えるようになってしまった。学ばない。案の定集中できず、今日提出したかった原稿を9割仕上げたら1時間くらい昼寝してしまった。

 

食事も不規則で適当。お腹が空いたタイミングでコーンフレークに牛乳をかけたものを食べ、昼寝から起きたあと袋ラーメンを食べようとお湯を沸かし、ふと冷蔵庫を開けると昨日が消費期限のキャベツの千切りパックがあった。これを食べねばならないとお湯の火を止め、一緒に買っておいたマルちゃん「パリパリ無限キャベツのもと」とあえて食べる。絶対にお腹が空くだろうと思ったけど、それ以上考えるのが面倒くさかった。空いた時に食べればいいと思って、とりあえず食べる。

野菜室には先日Mさんからもらったオクラもある。Mさんがやっている畑で穫れたものだそう。「料理をする人にあげようと思って」と言われもらったのだけど、恋人出張中は別人かと思うくらい料理をしなくなるのでまだ使えずにいる。特に今回は日記本の校了や他の仕事がかなり重なってしまい、先週カレーを作った以外はろくな自炊をしていなかった。なるべく新鮮なうちに食べなければ。

 

昼寝から起きて仕事いろいろ。ここ数週間は土日もずっとバタバタしていたけど、この週末は本当にようやく余裕を持って過ごせそう。朝、WさんにLINEして日曜日にご飯に行く約束をしたけれど、もう今日誰かと会いたくなり、AにLINEしてみる。リアルで会うことはちょっと難しいが、オンラインならとのこと。21時か22時くらいにはじめようか、と話す。

新宿に出て「イソップ クィアライブラリー」へ。スキンケアブランドAesopの新宿店で12日から16日まで開催されているイベント。普段販売しているスキンケアやヘアケアなどのアイテムはすべて取り下げられ、店内の棚がLGBTQIA+にまつわる本で埋め尽くされる。来場者はその中から一冊、好きな本を選んで無料で持ち帰ることができる。

この取り組み日本では初開催だけど、海外では何度も開催されてきたそう。イソップは社内にLGBTQIA+コミュニティ「Prism」があり、クィアの現在や歴史について学び発信しているという。知らなかった。店内は賑わっていて、みんな本をぱらぱらめくったり、著者の情報をスマホで調べたりしてどの一冊を選ぶか吟味している。この吟味する過程そのものがかなりいい体験になっていると感じる。

選書では、吉田修一の『春、バーニーズで』と『最後の息子』があったのがうれしかった。というのも『春、バーニーズで』は、私がはじめて読んだ「同じ時代を生きているゲイ」が出てくる小説だったから*1

本当はそれ以前にもゲイが出てくる小説を読んでいたかもしれないけど、はっきりと認識したのはこの作品だったので思い出深い。そして『最後の息子』は『春、バーニーズで』の主人公の若い頃を描いた作品。決して希望のある話ではないのだけど、主人公の打算的でひりひりしている姿を格好いいと思った。未来が開かれていなくても、享楽的でも、生の瞬間がたしかに描かれているだけで重要だった。自分を重ねていたわけではないと思うのだけど、相対化して自分の位置や感じ方をたしかめる大きな手がかりになった。朝日新聞の記事では、選書を担当した安田葵さんが「当事者のほとんどは幼少期から自分以外のクィアに会ったことがない中で、『これは私の話だ』と思えることには大きな意味がある」と答えている。
『春、バーニーズで』の書籍は家にあった気もするし、手放してしまったような気もする。これにしようかなと思ったけど、読んだことがない作品の方が、と思って沼田真佑『影裏』にした。

 

新宿から帰ってきて、夕飯をどうしようか考える。やっぱり作るのが面倒で、街をうろうろしたあと一人で回転寿司に入ってみた。皿を積み重ねていく時に皿の色がすべて同じであることに気づき、自分が160円のネタしか頼んでいないのか(最初に頼んだのが160円だったのと、300円以上のネタを選んでいない自覚があった。イカ、タコ、納豆巻など、安価なネタが好きなせいもある)、それとも何か間違いが起こっているのか? と不安になる。が、会計時に今はもうタッチパネルで注文を管理するので皿の色で管理していないことに気づく。回転レーンでまわっている寿司など、一部にだけ色がついているみたいだった。

 

帰ってきてKさんに「クィアライブラリー行ってきましたよー」とメール。以前会った時に「自分が選書するならどんな本を入れるか」と聞かれきちんと答えられなかったので、「年森瑛の『N/A』を入れたいなと思いました」と書く。主人公は「ぐりとぐら」みたいな関係性を模索する中で同性と付き合っただけなのに、恋人からも友人からも「LGBTの人」として扱われてしまう。カテゴライズやラベリングから逸脱し、自分の実感を手放さない主人公のまどかの姿は、クィアという広義の言葉だからこそ受け止められるもののようにも思う。まどか自身がそれを望むかどうかはわからないけれど。

 

22時ごろからA、Nとオンライン通話。前半はAのコロナ感染話を聞き、それから私の日記の本についてなど。「予約してくれると本屋さんがたくさん仕入れてくれるって聞きます」と言うと、Aは「2人とも大型書店で予約した方がいいのか、俺が大型書店、Nが小さい書店と分けた方がいいのか……」と言って悩んでいた。やさしい。

そしてローマ出張中の恋人が時間ができたそうで途中から参加。時差は7時間なので、ローマはちょうど夕方。「ミラノが東京だとするとローマは大阪。今日は岐阜みたいなところに行って帰ってきた」と、わかるんだかわからないんだか微妙な比喩で説明してくれる。久しぶりに恋人の顔を見た。先週の三連休にちょっと通話はしたけれど、その時は音声だけだったし、そもそも私が疲れ果てていてあんまりちゃんと話せなかったのだった。最初はオフラインで遊びたいとAに声をかけていたけど、恋人の顔も見れたし、オンラインでよかったのかもしれない。

*1:年齢的には全然年上だったけど。そして主人公を明確にゲイと言っていいかは読者に委ねられていたように思う