ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

と、思ったけれど[2023年1月20日(金)晴れ]

朝から月曜日の取材の文字起こし。しばらくインタビュー系の仕事が少なかったし、あっても忙しくて後輩に文字起こしをお願いしていたため、自分でやるのが久しぶりだった。火曜日くらいからみょうに手首が痛く、再生速度を追いつかないなー、と思いながら作業する。

11時からオンラインで打ち合わせ。チェックイン(近況報告)の時、Hさんが「地元(静岡)の本屋さんがストーリーズで(いちながを)紹介していましたよ!」と教えてくれてうれしかった。「セレクトのいい書店さんがよく置いてくれるんですよ」と返す。なんか自慢みたいになってしまったが本当にそういう書店さんに支えてもらっているのだ。

 

1時間ほどで打ち合わせ終了。このまま文字起こしを終わらせようかと思ったけど、お腹が空いてきたし家に食べ物がないので近所に食べにいく。昼食後は多分眠くなるから、頭よりも手や耳を使う文字起こしにあてたほうが効率がいいと思った。昼食後に文字起こしをしながら寝落ちしたことも何度かあるが、今日はそんなに寝不足でもないし、多分大丈夫だろう。

オムライスを食べて、帰ってきて、文字起こしの続き。最中、ふと自分が息を止めていることに気づく。ハムスターみたいに頬を膨らませて、ちょっと苦しくなったらふーっと吐き出す、という動作を無意識にしている。考えてみると原稿が行き詰まっている時も同じことをしている気がして、集中するとやりがちなのかもしれない。ただでさえ文字起こしは自分のインタビューの至らなさを直視しないといけなくて苦痛なのに、息まで止めて肉体的にも苦しい思いをしているって一体……無意識の行動だからすぱっとやめるわけにはいかないけど、気づいた時には意識して呼吸を整えたりしよう。

そしてこの無意識に息を止めてしまうことについて考えていて、川上未映子さんが「シャンプーが苦しくて苦しくて仕方がなかったが、それは無意識に息を止めていたからだったと気づいた」と何かのエッセイに書いていたのを思い出す。「力いっぱい奥歯を噛み締めていた」だったかもしれない。当時は「そんなことあるのかな」と思いつつ笑っていたが(面白く書かれたエッセイだった)、今ならわかる。

寝落ちせず、酸欠にもならずに無事文字起こし完了。今日が締め切りの原稿を最後にもう一度見直してから送信し、編集で関わっている本の原稿を読み進めていく。

 

そうしているうちに17時。Rina Sawayamaのライブへ行くため、準備して国際展示場へ向かう。昨年のサマソニのステージの話や私のタイムラインの様子を見ているとクィアからの人気が圧倒的で、今日のライブもそんな感じなのだろうか。以前買ったものの派手すぎて着ていく場所がなかったNOMA t.d.のシャツを着ていくことにする。胸元に花の刺繍があるもの。

駅に着くと中央線の先の駅でトラブルがあったみたいで、通常通り動いている総武線のホームに人々が大移動するのが見える。もう少し早めに出ればよかった、と思いながら、イヤホンを外してアナウンスに耳を澄ますと、トラブルは速やかに解決し、すでに運転を再開するとのこと。ほっとして、中央線のホームへ向かう。ほとんどの人が総武線のほうへ移動してしまったので、電車はがらがらだった。

 

タイムラインを見る限り、知り合いがとてもたくさん行っているみたいだった。だから誰かに会うかと思ったけれど、意外と知り合いには会わなかった。国際展示場駅のトイレで、今の恋人と付き合う前に一度リアルした男性を見かけたが、それも相手には気づかれなかったと思う。マスクをしていなかったらどうだっただろう。

政府が屋内でもマスクの着用を原則不要とする方針を検討しているとニュースで見ていた。新型コロナも5類に引き下げ。5類の是非についてはよくわからなくて、コロナの情報をほとんど追わなくなってしまったことを痛感する。マスクの着用不要に関しては、ちょっと嫌だなと思う。飛沫、という概念があまりにも身についてしまった。今は街中でマスクをつけていない人はいくらでも見かけるから慣れてきてしまっているけど、それでも電車などで近くにマスクをしていない集団がいたら少し距離をとるし。これもだんだん慣れて考えなくなっていくだろうか。

それから、単純に顔が隠れるのも気楽だと感じていた。目元しか見えないコミュニケーションは最初は不安だったけど、今では自分の表情が隠れることにかえってやりやすさを覚えている。まあこれは感染対策とは関係ないけれど。そしてどちらにしても、もうすぐ春だ。つまり花粉の季節なので、しばらくはマスクをつけ続けることになるのだと思う。春がすぎて、梅雨や夏になったらどうだろう。蒸し暑くてマスクをつけないことが増えていくかもしれない。2023年の梅雨や2023年の夏を少し思い浮かべる。

 

自分の席へ向かう途中、ビールが売っていたので買う。今ちょうど向かっているという恋人にLINEで「いる?」と聞くが、電波が悪くてなかなか送れず、送信中を示す左上を指す矢印が消えない。いらないと言われたら一人で2杯飲もう、と思ってとりあえず2つ頼む。手が塞がってしまう。座席の番号を頭で繰り返しながら向かった。座席に着いて恋人からのLINEを確認。ビールはいらないということだった。一人で座って、ゲイクラブみたいなBGMを聴きながらだらだら飲んで、10分くらいして恋人が到着。19時を10分ほど過ぎたところで客電が落ちて、ライブがスタート。

Minor FeelingsからはじまってHold The Girl、Catch Me In The Air、Hurricaneと最新アルバムの曲を続けてパフォーマンス。その後もFrankenstein、STFU!など、好きな曲をたくさん聴けてよかった。「LGBTQコミュニティに捧げる」と言って歌われたChosen Familyも素晴らしかったし、「彼女がいなければアーティストを目指さなかったと思う」と宇多田ヒカルのFirst Loveのカバーを披露したのもレア。アンコールで披露された「This Hell」のクィアネスに満ちた祝祭感はすごく勇気づけられた。

ライブは1時間ちょっとと、時間的には短め。バンドはギターとドラムのみとミニマルな編成で、個人的にはフルバンドでもっとゴリゴリの演奏が聴きたかったと思う(Rinaの歌声も、ギターとドラムの演奏もパワフルだからこそなおさら)。ダンスやステージングもそうだけど、ディーバのライブでよく見る過剰な感じがなくて、スマートだなと感じた。キャンプじゃないというか。

パフォーマンス、MC含め、どこまでも真面目な人という印象を受けた。そこを自分は好きだなと思うし、会場が祝祭的な空気に満ちていたのも真面目さゆえだと感じる。テンション上がりながら同時になんだかしみじみとした気分になった。

 

ライブが終わり、感想を言い合いながら恋人と帰る。途中、蟹ブックスの花田さんから今日発売の『ノンノ』でいちながを紹介したよと連絡がある。広く届きそうな紹介の仕方をしてくれていてありがたかった。もうすぐ発売から3ヶ月で著者的にはひと段落みたいな気持ちがなくもないのだけど、こうして話題にしてもらえると引き続き届く人のところに届くといいな、という気持ちになる。