ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

記憶とルーティン[2020年10月22日(木)晴れのち曇り]

毎年関わっている情報誌の構成を朝から。いつも昨年の内容をベースにアップデートしながら作っていくのだけど、今年はコロナの影響があって作り直しの量が多くなりそう。昨年の誌面に修正指示を書き込んでいく。いつも使っているフリクションの消せるボールペンがなぜか見当たらず、普通の消せないボールペンでやったらいちいち書き込みを躊躇してしまって全然進まない。間違えたとしても修正ペンを使うなり、ぐしゃっと塗り潰すなり方法はあると思うのだけど、(本当にこれでいいのか)と妙に悩んでしまう。私は後戻りできないことに対して慎重になりすぎるくせがある。だから話すよりも、人に伝える前に一度見直せる文章のほうが好きだ。でも、そうやって慎重になっている間にタイミングを逃してできなくなってしまったことがけっこうあるし、話すことへの苦手意識はできたらなくしたいと本当は思っている。

すべては私という一人の人間の性質としてつながっているが、それぞれの悩みはそれぞれに対処する方が手っ取り早い。「消せないボールペンで躊躇なく書けるようになったら何にでも思い切ってチャレンジできるようになりました!」みたいな、自己啓発本にありそうな展開は特に望んでいないので、とりあえずコンビニに消せるボールペンを買いにいった。

 

昼過ぎまで仕事。そのあとは取材先からの赤字の確認や、細かい編集作業など。やることは色々とあるのだけど、なんだか全然やる気が起きない。低気圧のせいだろうか。

でも、こういう時はたいてい体か心のどちらか、あるいは両方が不調の場合が多いのだけど、今日は体も健康だし特にネガティブな気分にもなっていない。だけどとにかく仕事とか、なんらかの集中力を要する作業をしようとすると、胸のあたりが重くなって拒否感がある。心が二つに分かれたような、あると思っていたはずの場所に見当たらないような、ちょっと不思議な感じだった。幸い急ぎの仕事はなかったので、適当にYouTubeを見たり、夜にやろうと思っていた夕飯作りを前倒ししたりしつつ、気分が乗ってきたら少しだけ仕事を進める、というふうに過ごした。

 

恋人の体調が良くないというので、夕飯はしょうがとにんにくを効かせた鶏肉とネギのスープ。このスープは小さい頃、風邪をひくと母親がよく作ってくれていて、一人暮らしをしてからも風邪をひいた時によく作る。「体調が悪い時はこうする」というルーティンがあると、それだけで信頼できる薬が一つ増えたような気持ちになる。私は他にも、口にする食べ物になんでもしょうがとにんにくを入れる、ポカリスエットを飲んでとにかく寝る、ビタミンCを摂る、などをよくやる。

このスープ、母は鶏団子で作ってくれていた。噛むとほろほろと崩れる食感がやさしくて好きだったのだけど、私はそこまで手間をかけるのは面倒なので鶏もも肉で。鍋に鶏肉と長ネギ適量(どちらも具材をしっかり食べることを意識して多めに入れるといい)と水を入れて火にかけ、沸騰したらアクを取ってしょうがとにんにく、鶏がらスープの素などで味をつけて完成。今日の夕飯はこのスープと、ぶりの照り焼き。これだけでは足りないかもと思ったので、お腹が空いた時用に中村屋の肉まん、あんまん6個入りも買ってある。

 

21時過ぎに恋人が帰宅し、彼が録画していた『ガイアの夜明け』を見ながら食べる。「台湾のコロナ対策はなぜ成功したのか?」というような特集。台湾は市中感染が半年近く0人をキープしていて、世界的に見てももっとも対策に成功したといえる。にぎわいを取り戻した夜市や需要が増える国内旅行の様子、対策に尽力したキーパーソンの話や、今回の成功の裏側にはSARS流行時の失敗があったことなどが特集されていた。

全体的にデータの透明性や理性、公共への意識が高く、それらが功を奏している印象。就任直後から日本学術会議の任命拒否という、ルールを恣意的に読み替える不誠実な態度を見せて批判されまくっている日本と比べて、どうしても暗い気持ちに。しかし「台湾いいなあ、すごいなあ」という話ではなくて、台湾はひまわり学生運動などを経て、市民が政府をしっかり監視している、という力関係を示し続けてきたからこそ今があることは忘れてはいけないよな、と思う*1。あまり「現状を打破できないのは自分たちに力が足りないからだ」と追い込みすぎても続かないけど、権力を監視して乱用を批判することは継続してやっていかないといけない。

 

夕飯はやはり足りず、食後に私はあんまん、恋人は肉まんを食べた。「うわー、こういうの実家でたまに出てきた…」と、恋人がしみじみしながら肉まんを頬張る。私の家も冷凍庫に肉まんやあんまんがストックされていて、たまに母が蒸してくれることがあった。家庭の味というわけではないかもしれないけれど、記憶に紐付いている味というものがある。

*1:この辺は作家の李琴峰さんの「台湾のコロナ対策を賞賛する、日本の人たちに知ってほしいこと」(現代ビジネス)という記事を読んで感じたことでもある。統制のとれた政府の対応と表裏一体の、私権の制限の厳しさについても触れられていて、勉強になる