ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

この感覚は重要[2022年12月14日(水)晴れ]

朝9時半から打ち合わせ。その少し前に起きて、コーヒーを淹れてニュースレターの準備。シャワーを浴びようと思ったけど面倒でやめてしまう。最近は脱衣所が寒くてシャワーを浴びるのが億劫になることが多い。浴びれば熱いとわかっていても、その手前の寒さを乗り越えられない。目を覚ますためにコーヒーをがぶがぶ飲む。

人前に出られる状況ではなかったのでカメラオフで打ち合わせ。そのあとまたニュースレターの執筆。いつも月の初めに送っているのだけど、今月はバタバタしていて遅くなってしまった。メインで書いたのは「戦争が怖い」という話。ここしばらく防衛費を確保するために増税する、というニュースをたくさん見る。たしかにこれだけみんな経済的に参っている中で増税なんてと思うけど、論点はそこなのか? 増税以前に、防衛力を強化すること、防衛費を対GDP比2%まで一気に増やすことへの不安が大きい。

防衛政策の基本方針をまとめた「安保3文書」は16日にも閣議決定される見通し。でも、「国家防衛戦略」(「防衛計画の大綱」と呼ばれる指針を名称変更したもの)には反撃能力の保有が明記される。反撃と言うとなんか正当な感じがするけれど、その内容を見てみると、これまでは相手国がミサイルを発射した際にそれを撃ち落とす(迎撃する)ことしかできなかったのを、危険があると判断したら基地を攻撃できるようにするというもの。反撃は「攻撃を防ぐのにやむをえない必要最小限度の自衛の措置」と言われているけど、実質的には「反撃」という建前で先制攻撃ができるようになってしまうんじゃないか……。

この防衛力強化の方針、ちゃんと理解を得られているんだろうか。この段階の議論がおざなりになっているというか、増税するかどうかの話にすり替えられているように感じる。それとも私が知らないうちに議論は尽くされた? たしかに、正直に言えば私も「平和ボケした日本人」で、選挙期間中に各党の政策を比較するときも安全保障や防衛のあり方を優先的には見ていなかった。どこかで大丈夫だろ、と楽観視していた節がある。だけど今変えられそうになっている方針って、そういう「大丈夫だろ」と思っている人たちにもしっかり理解を得ながら進めないといけないレベルの大転換では?

なにかのきっかけで戦争に突っ込んでいきそうな予感が胸を占める。ニュースレターでは「この日記が戦前の記録にならないといいなあ……」というようなことを書いた。現在を戦前にたとえるのは言葉は強すぎる気がして自分は避けてきたし、そういうたとえが使われた文章も距離を取って読むようにしていたけど、今回はかなり危機感を募らせている。本当に怖い。

 

お昼ご飯は昨日の夜に作ったカレーをかつお出汁でのばし、カレーうどんにする。醤油を少し垂らすと味が決まった。午後は明日の取材準備、日記書き、多和田葉子『太陽諸島』を読了。夕方からプールへ行き、今日は2100メートル泳いだ。

相変わらず平泳ぎを頑張っている。手はちゃんと水をかいて進んでいる感覚があるのだけど、足がうまく使えていない気がする。以前YouTubeで見た動画を思い出してみる。足を曲げる時にぐっとお尻に近づける、と言っていた。それから、足を上に上げすぎるとダメ、とも。試しに少し足の位置を低めにして泳いでみる。すると、水をちゃんと蹴れている手応えがあった。おお、と思う。ただ、ちゃんと蹴れているというだけで思ったほどは前に進まない。推進力が生まれないというか。難しい……。だけどこの感覚は重要な気がして、体が覚えるように少し連続して泳いでみる。

 

帰ってきて夕飯。カレーを温めて食べる。ヨーロッパ出張中の恋人からランチの写真が送られてきたので、自分もカレーを撮って送る。四角いジップロックのコンテナにご飯を詰めて保存していたのだけど、そのご飯をほぐさず皿にのせ、上からカレーをかけていた。「ご飯が四角くて面白い」とLINEの返信がある。同意見です。ずぼらなだけだがお子様ランチっぽさがある。納豆を混ぜて食べたよとLINEを送ったら、すぐに「納豆いいな」と返ってくる。ヨーロッパでは納豆はなかなか食べられない。

 

本『1日が長いと感じられる日が、時々でもあるといい(いちなが)』の版元であるタバブックスから荷物が届いていたので開封。サインペン、本の特典のポストカード、日記のZINE『ティンダー・レモンケーキ・エフェクト』。ZINEは編集Mさんが「面白かったから感想聞きたいです!」と送ってくれたのだった。特典のポストカードは私が17日に吉祥寺のブックマンションでお店番&本の手売りをするので、それ用。サインペンは2本入っていて、私がサインの機会があるたびぎこちなく右往左往するからだろう。「やるぜサイン、カスカスになるまで……」と、Twitterに写真をアップ。

『いちなが』も気付けば発売から1ヶ月半。さまざまな書店でたくさんイベントをしてもらっているけれど、再び売れているのか自信がなくなってくる時期に突入している。書店に挨拶に行くと「売れてますよ」と言ってくれたりもするのだけど、新しい本は毎日どんどん刊行される。いつまでも目立つ場所に置いてもらえるわけでもないだろう。焦ってしまう。まだまだ売っていきたいけれど、自分がSNSで告知して届く範囲にはすでに届ききっているような気もする。誰かに取り上げてほしい。あと単純に感想を聞きたい。何かを作っている人は感想を食べて生きている。エゴサを一日に何度もしてしまう。頻繁にエゴサすればするほど新着がない画面を何度も見ることになる悪循環。それでも、発売直後よりもSNSで感想を見かける機会が増えている気がして、それはうれしいのだけど。長く売っていきたい、話題になってほしい、一人にとって大切な本になればそれでいい、大勢に知ってほしい。いろんな気持ちになる。

インタビューも発売直後に一回してもらったのみで、もちろんそれもうれしかったし貴重な機会だったのだけど、イベントで繰り返し話すうちに自分でも本への理解がだいぶ深まってきた気がするので、ここらでそろそろもう一度ちゃんと話したい。が、どうすればいいのやら。

ブックマンションのお店番で手売りをするのも、どうなのかなあと思っている。イベントの機会に買ってくれる人もいるからやったほうがいいのだろうが、書店で手に取ってもらった方が次につながる気もする。私が自分で打ったイベントでたくさん売れてもふーんという感じだけど、書店で売れたら「この本、よく動くから仕入れよう」と思ってもらえる気がするし。って、こんなの書店で働いたことない人間の想像なのだけど……すべてが手探りだ。

 

夜はドラマ『つくたべ』を最終話まで見る。そのあと、Netflixドラマの「Smiley」。バーで働くモテ筋ゲイのアレックスと建築家のアート系ゲイのブルーノ、1本の間違い電話からはじまるロムコム。ブルーノは「外見が冴えない」という設定で、ゲイアプリで見た目のいい男性に袖にされたり友人に「君じゃうまくいかないよ」と言われたりする。でも、ブルーノ(ミキ・エスパルベ)渋くて格好よくない……? 私が年上好きだから……? ブルーノの評価がドラマ内の登場人物とまったく共有できず、彼が見た目のせいでモテないという話になるたびつまづく。でもそれ以外はテンポ良く見られて楽しい。

時折映るサグラダ・ファミリアが印象的な街並みや、すごい早口に聞こえるスペイン語、ドラマを彩る音楽など、細かい部分が印象に残る。こうした細部や風土が、物語と自分自身をつなぎ合わせる時に大事だったりするんだよな。ゲイのロムコムはたしかに増えてきていて、他愛ないもの、中年期以降を描いたものなどその種類も多様化している。でも、簡単に「ゲイが出てくるドラマ増えてきたよね〜」と言うのは、ちょっと乱暴かもしれないと思った。だって異性愛のロムコムは映画産業があるすべての国で作られていると思うけど、同性愛のものはそうではない。同性愛者はどこにでもいるのに。

あと、私は「ゲイ」が描かれているか? という点を重視しているのかもしれないと思った。自分でも意外なのだけど、男性同士の恋愛ではなく、ゲイとしてのアイデンティティーを持った人の姿を見たいのだと思う。パク・サンヨンの『大都会の愛し方』が自分にとって大切な作品なのは、たとえばK-POPへの熱狂や女友達との関係構築のあり方、親との関係、差別の受け流し方などが複合的に描かれていたからだ。喜びも悲しみもある、その深い陰影のなかにこそ私は自分と近しい存在を見出すことができる。

そういう意味では『ぼくらのホームパーティー』はゲイであることをしっかりアイデンティティにした人物がたくさん出てきてよかった。あと、『ぼくらのホームパーティー』や『大都会の愛し方』と単純に並べることはできないが(人種的マイノリティとしての視点が描かれているため)安堂ホセ『ジャクソンひとり』もよかった。『ジャクソンひとり』は登場人物の話す言葉が感情を的確に、素早く掴んでいるのが印象的。描写も映像的で、その正確さが心地いい。身体的な、ノリながら読める小説だと思う。

物語のクライマックスの舞台は、固有名詞こそ伏せられているけれど新木場のageHaで行われていたゲイナイト「Shangri-La」だろう。あの空間の、誰に触れられていなくても何かに絡め取られている気分にさせる暗闇の濃さとそこを行き交う視線、声をかき消すダンスミュージック、いつまでも口の中に残るアルコール、大声と酒でヒリヒリしてくる喉、ハイになってくる頭。その記憶が残っていたから、最後の挑戦的な展開にはまさに体ごとのめりこむみたいにして読んだ。いや、「その記憶」がなくても十分楽しめるんだろうけど、でも小説の世界との近さはやっぱりあって、ニヤッとしながら読めて楽しかった。

 

明日は8時半に丸の内。早起きしないといけないので、ちゃんと起きれるか少し緊張しながら寝た。