ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

お店番[2022年4月23日(土)晴れ]

今日は3ヶ月ぶりに吉祥寺ブックマンションの店番の日。期せずして渋谷では東京レインボープライド(TRP)を開催しているということで、直前に自分もなんかやろう、と思って、LGBTジェンダー〜社会運動関連の本(私物)でさらっと読めるものを並べることにした。午前中にざっと読み返して、関連するところにふせんを貼る。

 

本を持っていこうと思ったのはTRPにポジティブな気持ちで連動しているからではなくて、VOGUE Japanで公開された団体の共同代表によるインタビューが当事者を中心に話題になっていたのを見たことが大きい。

主に批判されているのは、TRPがひたすら「ハッピー」な「フェス」であることを全面に打ち出していることに対する「「私たちに人権を」というアプローチをとると身構えてしまう人もいて、当事者を取り巻く環境を変えるためにやっているのに、ややもすると当事者と非当事者の分断を生みかねない。でも、ハッピーな要素には人を巻き込む力があります。」という発言と、「(TRPがはじまった)2012年ごろまではLGBTコミュニティの連帯はなかった」というところ。

後者に関しては単純に歴史を遡ればそんなことはなかろう、とわかる。前者については、一見良いことっぽいのだけど、人権=LGBTQ+の人たちが直面している課題や日常の中の不安、危機を訴えることなしに、私たちってハッピー、という雰囲気でどんなふうに変わるの? あるいは、変わったとしてそれは当事者にとって良い変化なの? 世間が受け入れやすい側面だけが受け入れられて、都合の悪い部分は受け流され続ける=差別的な構造の根っこは変わらないんじゃないの? という批判が挙がっている。私も基本的にはこの批判に同意している。

でもなんかSNSを見ている限り、鮮烈な驚きと怒りによる大炎上というよりは「やっぱりか」という落胆の色が混ざっているように思える。それはお金を持っている企業ブースが大きくなって、地道に活動してきたNPOなどが小さな場所へ追いやられるという近年の資本主義感を増すTRPの動きを知っていれば予想できてしまう発言でもあって、私も記事を読んで感情が大きく揺れ動くことはなかった。

この記事は(好意的に読めば)人権を訴えることがダメとは言っていなくて、まずハッピーな空気、次に人権、という順序の話をしているだけと言えなくもないのだけど、不信感の蓄積がこれまでにあって、好意的に読めなくしている。そしてだからといってTRPのすべてが悪いわけでもなく、重要な機会になっているのも事実なので、みんななかなか言葉が難しいのだと思う。

 

ただ、「人権を」というアプローチで身構えてしまう人がいることは事実だとも思う。そういう人にどうやってわかってもらおうとすればいいのか考えると、そもそもハッピーであれ真面目であれ、雰囲気や動員にどれだけ頼れるのかわからなくなる。それよりは、一対一の緊張を伴う関係のほうが、多くのことをお互いに考えるし伝わるのではないか*1。広い場所じゃなくて狭い場所で、静かにできる方法もあるのではないか。その時、本はすごく良い道具になるのではないか。そう思って、自分なりにできることとしてセブンイレブンでA3ネットプリントしたプログレスプライドフラッグ*2を飾り、ブックマンションの狭い空間に本を並べたのだった。並べる本は短時間で読めるように絵が多かったり、項目が細かく区切られていたりするものをセレクト。そして権利や、ノイズとしての運動の歴史が書いてあるところにふせんを貼る。

 

13時にお店を開けると、すぐに4,5名が来店。緊急事態宣言も明けているし、たくさんの人がきそうだなと思っていたのだけど、その人たちが帰ったらしばらく誰も来ない時間が続いた。案外波がある。最近サボりがちな日記を書いたり、本を読んだりして過ごす。その間にもぽつぽつとお客さんが来る。来た人がみんな私が設置したLGBT本コーナーを見てくれるわけではないが、何人かは今日のために書いたテキストや、本を読んでくれていた。

コーナーの前で誰かが立ち止まってくれるとそわそわして、どんなことを考えているのだろうと緊張する。それは相手も同じかなあと思ってこちらから話しかけることはしなかったのだけど、それだとなかなかコミュニケーションは生まれなかった。正直、もっと大勢の、多様な反応を期待していたからちょっと落ち込みもしたのだけど、まあ次はやり方を変えて、継続してやってみよう。

 

営業は波がありながらも、さっと出ていく人、じっくり1時間近くかけて見ていく人、それぞれの時間の流れが重なっていて良かった。人がいなくなってお菓子でも食べようかと思っていたタイミングで運営の中西さんが来店。同じ時に「にちようだな」さんも来店し、3人で少し話す。二人とも日記祭で出した私の新しいジンを買ってくれた。中西さんは「4月8日までの日記が入っていて、10日のイベントで売りました」という私の宣伝文句をめちゃくちゃ楽しんでくれる。中西さんがいるタイミングで、私が今日自分の棚に補充した雨宮まみと岸政彦『愛と欲望の雑談』が売れたのだが「補充したその日に、しかもお店番してる日に売れるなんてすごいっすね!」と誰よりもテンションが上がっていた(運営なのに!)。

にちようだなさんはLGBTコーナーに置いていた『プロテストってなに? 世界を変えたさまざまな社会運動』を「なかなかない切り口の本ですね」と興味深そうに読んでいる。そのあと、お互いのジン制作について情報交換をしたりして、30分くらい?人のいない店内で話した。

お店番をするとお客さんとのちょっとしたコミュニケーションはいろいろあって、コロナで全然出かけていなかった去年からすればそれだけでも十分貴重なのだけど、最近は欲が出て「新しく人と仲良くなりたい」と常々思っている。だからこうして30分とか、まとめて話ができる時間があってすごく良かった。あとお客さんでも、買っていかれる本が自分が読んだことのあるものだと「これいいですよ!」とか、一言言いたくなる。テンションとか雰囲気で言わないことも多いのだけど、その欲求が高まっているのは感じていて、なにか新しい関係を欲しているんだなあと思う。

 

17時ごろににちようだなさんが帰って、人のいない店内でお菓子。以前は17時までの営業としていたのだけど、今日は19時まで開けてみた。18時台に来店が重なり、開けていてよかったと思う。19時になり、クローズ作業をして外に出る。ブックマンションは地下にあるので店内は微妙に寒かったのだけど、外は空気が生ぬるかった。夏の気配。良い季節がまたやってくる。

 

今日の新規陽性者数は5387人、現在の重症者数は14人、死者4人。

*1:そう考えると、やはりTRPでやるべきは企業ブースを大きくすることではなくて、日々活動を続けている知見の豊富なブースに多くの人が来られるようにすることだと思う

*2:プログレス〜にせよレインボーフラッグにせよそうなのだけど、高画質のものが意外とネット上になく、フォトエージェンシーが販売しているのも腑に落ちなかった……なんで活動のために生み出された旗が「商品」になっているんだろう。ムカついたので私はWikimediaこちらのページからダウンロードし、フリーのサイトで変換してプリントできるようにしました