ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

時間をかけたい[2022年6月12日(日)曇り]

寝坊してしまった。洗濯しようと思っていた日に寝坊すると、太陽を無駄にしてしまったような気持ちになる。無駄にしてないしまだ挽回できる、そう思いながら洗濯。12時前に洗濯機が鳴り、午前中に干せたからまあいいかと思う。昼過ぎに少し雨が降ったけど、ベランダの内側までは届かず洗濯物は濡れずに済んだ。まっすぐに落ちる静かな雨だった。

 

お昼は刻んだきゅうりとねぎ、わかめを入れたぶっかけそば。そのあと2時間ほど本を読んで過ごし、吉祥寺ブックマンションに本の補充に行く。なかなか棚の様子を見に来れなかったけど、自分の日記本が何冊か売れていてうれしかった。どんな人が手に取ったのだろう。

店番は最近ブックマンションに入居したというBooks ことば舎さん。今日がはじめての店番だそうで、ご自身の棚ではアジアの文学フェアを実施していた。「パク・サンヨンの『大都会の愛し方』がちょうど僕の棚にもありますね」と話す。『大都会の愛し方』はソウルで生きるゲイを主人公にした短編集で、主人公は仲の良いゲイ6人組のグループチャットのルーム名に「ティアラ(T-ARA)」とつけたりする。どの国も似たようなところがあるんだな、と思う。日本でゲイを主人公にするとパートナーなどとの恋愛に焦点が当たりがちなのだけど、『大都会の愛し方』は点や線ではなく面を、猥雑さも込みで描いているのが良い。こういう作品は日本なら新宿二丁目を舞台に描くこともできるはずだけど、意外と見かけない気がする(女性たちを中心に描いた物語では李琴峰『ポラリスが降り注ぐ夜』があるけど)。

少し時間があったので古本屋「百年」へ寄り、それから井の頭線に乗る。Wild Nothingの『Nocturne』を聴きながら。先週の土曜日にWさんとFさんと会った時に話題に上がったたなと「あちらこちらぼくら」をこの前読んで、そこに描かれていたので懐かしくなった。音が気持ちいい。線路沿いにあじさいがたくさん咲いていてきれいだった。

 

駒場東大前で降り、こまばアゴラ劇場でMと合流。いいへんじの舞台「薬をもらいにいく薬」。主人公のハヤマは持病の不安障害が悪化し、2週間仕事を休んでいる。今日は同棲している恋人が少し長めの出張から帰ってくる日で、羽田空港まで迎えにいくために外に出たいのだけど、お守りのようにいつも持っている薬を切らしてしまってそれができない。そこにたまたまバイト先の同僚のワタナベがやってきて(スマホをずっと機内モードにしていて連絡がつかないハヤマに、シフト表の紙を渡しにきた)、ハヤマは思い切ってワタナベを呼び止め、一緒に羽田に行ってもらえないかと頼む。

序盤にはハヤマさんが部屋の中で、ワタナベくんと一緒に羽田までの道のりをシミュレーションするシーンがある。「こうなったらどうしよう」「ああなった時どうすればいいかわからないからやっぱりやめよう」と、無限に不安が広がってしまうハヤマさんに、ワタナベくんは具体的な(そしてシンプルな)解決策を提示する。そうやって不安を取り扱えるサイズにするシーンが印象的だった。

ワタナベくんはたいていのことを「気にしすぎだよ」「大丈夫だって」と言える人で、その姿勢はハヤマさんにとっては救いになる。ただ一方で、そのラフさを息苦しく感じてしまう人もいる。ワタナベくんの恋人のソウタくんがそうで、じっくり考えたいソウタくんは、「気にしすぎだよ」でどんどん前に進んでいけるワタナベくんに置いて行かれたような感覚を覚えている。具体的には、ワタナベくんとソウタくんが一緒に住む家を探す時、ワタナベくんは不動産の人に「友達です」と二人の関係を伝えるのだが、ソウタくんはそのことに(というか、それが「仕方ない」、現状では最善の切り抜け方であることに)傷ついてしまう。

ワタナベくんもソウタくんも、どっちの気持ちもわかるなあ、と思いながら見ていた。今作は『器』という作品との二本立て公演で、どちらも「死にたみ」をテーマにしている。死にたみに近いのはハヤマさんやソウタくんなのだけど、二人に「大丈夫だって」と伝えるワタナベくんが、死にたみから遠くなるまでの日々を想像せずにはいられなかった。舞台ではあまり言及されることはなかったけれど、マイノリティが「気にしすぎだよ」と言うようになるには、「繊細でいては心が保たない」という別のかたちの切実さがある気がするから。もちろんワタナベくんの生来の性格もあるだろうけど。

 

終演後に主宰の中島梓織さんに感想を伝える機会があって、「自分もゲイで、二人の家探しに自分とパートナーの家探しの時のことなんかを重ねながら見たりしました」と伝える。その帰り道、なんだかわかりやすく納得感のあるポイントをかいつまんだ感想を伝えてしまった気がして後悔。本当はもっと感じていることがたくさんあったはずなのだけど、目の前で考えながら話すのが憚られ、コンパクトですぐ取り出せる感想を選んでしまったのだと思う。終演後のアフタートークで、桃山商事の清田隆之さんが「コミュニケーションの時間が少なすぎるよね」といった話をしていて頷いたばっかりだったのに、自分から短時間のコミュニケーションに最適化してしまった。まあとはいえあそこで長々と話すのは違ったかもしれないが…いやしかしもう少しやりようはあったのでは……とか考えながら、駅へと戻る。

 

下北沢まで移動し、先に移動していたM、ご飯から参加の恋人と3人で「新台北」。腰果鶏丁(鶏肉とカシューナッツの炒めもの)、カシューナッツがかりっとしていておいしかった。Mと演劇の感想を話したり、恋人が家から歩いてきたという話を聞いて驚いたりする(バスを逃してしまって、次が30分後だったかららしい)。

いつか小田急線沿いに住みたいと話したら沿線に住んでいるMがプレゼンしてくれて、東横線沿いはどうかという話になると恋人は「別れたら一人で住みたいと思ってる」と言っていた。この「別れたら」というのは「もし今の自分が一人暮らしをするなら」くらいのもので深い意味はなく、私たちの間ではよくする話だったりする。

 

今日の新規陽性者数は1546人、現在の重症者数は4人、死者0人。