ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

タケノコとロボ[2022年5月23日(月)晴れ]

水を飲もうと冷蔵庫を開けると、半分に切ったタケノコの水煮を保存しているタッパーが目に入る。アクが出るので水を換えなければと思って手に取ると、断面を上にしたタケノコが水の中でゆらゆらと揺れた。裏返った節足動物のようで可愛く思える。うっすらと白濁した水を捨てて、新しい水を注ぐ。世話してる感があって愛着が湧いてくる。どうやって食べようかな。もう半分は日曜日に、『きょうの料理』で見たたけのこチーズトーストにして食べたのだった。

 

月曜日なので会社へ。電車の中で、ゼレンスキー大統領がウクライナからの男性の出国を求める請願書に反対する姿勢を示した、というニュースを読む。ロシアのウクライナ侵攻から3ヶ月。毎日新しい事件が起きて意識がそっちに持っていかれるけれど、戦争はまだ続いている。

ウクライナでは2月24日から総動員令が発令中で、18〜60歳までの男性は出国が認められず、徴兵の対象になっている。自分がウクライナに住む男性だったら、と考えてしまう。絶対に徴兵されたくないし恋人や友人、知り合いも徴兵されてほしくない。何か見落としがあるんじゃないかと不安になってしまうくらい単純に、素朴にそう思う。ただそう思えるのは戦時下にない日本での想像だからであって、すでにたくさんの人が命を落としているウクライナでの状況はもっと複雑なのかもしれない。一度舵を切ったのに出国を認めれば、士気が下がり兵士たちの中でも分断が生じるかもしれない。「生まれ故郷を守るために戦う」なんて自分は絶対にごめんだと思うけど、その思いに燃えて戦地へ向かった人がたくさんいたから守られたものもあるのだろうし……そもそもロシアの軍事侵攻という大きな間違いの上で生じている状況で、出国を認めない=「愛国」を掲げて生きている人間を強制的に戦力へと変換する姿勢に反対したい気持ちに、免責したくなるような気持ちが靴底の小石のように紛れ込む。足に力を入れようとすると痛みが走る。現実とかこれまでの動向とかを一旦置いて、それでも毅然と立つ力がほしい。

 

地下鉄を降りると交差点に警官が立っていて、バイデン大統領が来日していることを思い出す。信号が変わるまで警官の人を見るともなく見る。腰に拳銃の形に膨らんだ革のケースがぶら下げてある。

 

関わっている雑誌が校了したので各記事の短い紹介を考え、疲れたところで明日締め切りの原稿の推敲。取材中の/思考のうねうねとした蛇行が伝わる原稿にしたいと思ってやってみたのだけど、果たしてこれが読み手に伝わるのか不明。見返せば見返すほど手を入れたくなるところがでてきて、一生完成しなさそう。だけどかちっと情報だけをまとめるのはなんとなく違うような気がしている。

 

気づいたら夕方で、近所のガストへ行く。ここのガストでは少し前からネコの顔がついた配膳ロボットが2台運転している。ドリンクバーの横、キッチンの入り口がロボットたちの待機場所になっているのだが、水を取りに行った時に配膳を終えて帰ってきたロボットとぶつかりそうになって、恐怖を感じた。

スピードは出ていないし人感センサーがあるから実際にぶつかることはなさそうなのだけど、人間ならその人が止まって道を譲ってくれるのか、どちらに避けるのかが微妙な体の向きや目線でわかるのに対し、ロボットはそれがない。愛らしく思えるが感情も次の行動も読み取れない、まるい瞳がディスプレイに表示されているだけだ。私はタケノコに愛着が湧くのに、猫型ロボットは怖い。

水を啜りながら観察していると、ドリンクバー付近で立ち止まった親子に「通してほしいニャ」と悲しそうな声で何度も話しかけていた。音量が小さくて、ロボに背を向けて何やら相談している親子には聞こえないらしい。人間だったら通れるくらいの隙間があったが、人感センサー的には無理なのらしかった。気づかないまま親子が立ち去り、ロボが私の席にまっすぐ向かってくる。その背に和風ハンバーグをのせて。

 

今日の新規陽性者数は2025人、現在の重症者数は4人、死者6人。