ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

よい休日をお過ごしください[2021年12月28日(火)晴れ]

午前中は文字起こし。家を出たいと思っていた時間ギリギリに終わって、慌ただしく準備をして千葉行きの電車に乗る。年内最後の取材の日。

 

質問項目を見返していたら、左に座っていた男の人が電話をはじめた。股を開き気味に座っているから、その人の隣は空席になっている。静かな車内で声がよく響くけれど、みんな気にしないようにしていた。乗客たちとの微妙な一体感を感じながら、私も目の前の文字に集中しようとする。

「よい休日をお過ごしください」と、妙に丁寧な言葉で電話は切られた。電話の相手への応答だったのか、その人が先に発したのかはわからないけれど、自然な感じだった。少し空気が変わる。車内は再び静かになって、気づくとその人の隣にはサラリーマンが座っていて、また次に気づくとその人の席にはおばあさんが座っていた。

 

井戸川射子の小説デビュー作「膨張」を読む。『ここはとても速い川』収録のもの。静かに流れる文章の中に、これしかない、という表現があらわれて、そのたびに自分と主人公が重なっていく感覚におちいる。

車内は暖かくて、昨晩の眠りが浅かったこともあってすごく眠い。まぶたを閉じてみるけど寝ることはできなかった。諦めて目を開けるとちょうど大きな川をわたるところで、真上にある太陽の光を反射してぎらぎらと輝いている。年末の実感があまりないけど、乗客には今日が仕事納めの人もいるんだろう。

 

14時から取材。ある施設で働く4人に話を聞いたけど、今回はみなさん言葉巧みでエピソードも豊富。いいですね、と言い合いながら取材を終えた。

 

帰ってきて、夜はスズキナオ『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』を読む。前作『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』もそうだったけど、良すぎて胸がいっぱいになってしまい、一気に読めない。今作も途中まで読んでため息をつきながら本を閉じ、もったいないから、といったん別の本を挟んでいたのだった。

今日は本の真ん中あたりを読む。「モリで突いて捕った魚をイカダの上で食べる「たきや漁」が夢のよう」、「一軒の民宿を営むご夫婦だけが暮らす島ーー三重県志摩市横山へ」「優しい味ってどんな味?」などどれもいいのだけど、「私たちの7月20日ーーなんでもない日の夕飯の記録」という、いろんな人の7月20日の夕飯を聞いた回が特によかった。デイリーポータルZの記事*1を収録したもので、日記本をたくさん出している古賀及子さんと一緒に、寄せられた7月20日についてコメントしていくという構成になっている。

 

古賀 こういう、人がそれぞれ生きてるってことが泣けちゃう感じがありますね。それは別に特別な日でなくても、やっぱりいいんだっていうことですよね。

 

ーーうん、みんなの記録を分けてもらって、それがわかりましたね。

 

今日の新規陽性者数は46人、現在の重症者数は2人、死者1人。

*1:この記事でも十分に良いのだけど、加筆された一文が特にぐっとくるからぜひ本で読んでほしい