ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

文学フリマ[2021年11月23日(火)晴れ]

少し早く起きたせいで時間が余ってしまった。身支度をして軽い朝ごはんを食べたあと、まだ寝ている恋人にちょっかいを出したりしつつ、忘れ物がないか確認する。今日は文フリの日。新刊を詰めたトートバッグを試しに持ったりもしてみる。前回よりも多めの部数を持っていくからスーツケースで行こうと思っていたはずが、前日にうまく詰めないことが発覚した。変な隙間ができて本が安定しないし、幅が狭くて平積みできず、途中で表紙などが折れてしまいそうだったのだ。

印刷所から送られてきた段ボール(中にはみっちり新刊が詰まっている)を、試しに手持ちの中で一番大きなトートバッグにそのまま入れるとぴったりだった。ぴったりすぎて、布地の表面に段ボールの角が浮いて尖っている。布地に穴が空いたら嫌だなとか思いつつ、届いた時は緩衝材が入っていた上の部分にもさらに本を詰めていく。コロナも落ち着いていて人がたくさんきそうだし、たくさん持っていきたい。トートバッグがいっぱいになったら、無印良品のリュックにも念のため新刊を10部ほどと、旧刊を詰めた。背中と肩がずっしり重い。

 

9時半過ぎに出発。途中でコンビニに寄って、旧刊につけているふろくペーパーを印刷する。途中の山手線で出展者と思われる方がいて、どんなふうに荷物を運んでいるのか観察する。その人はスーツケースではなくアウトドアなどでよく見る折りたたみ式のキャリーカートに、本を詰めたプラスチックケースを載せて運んでいた。これはかなり便利そう。同じ浜松町駅で降りる。

東京モノレールは文フリに向かう人と羽田空港に向かう人で混雑していて、みんなだいたい大きな荷物を持っている。一緒にブースに立ってくれるMとホームで偶然合流。乗車して、「モノレール好きなんだよね」「わかる」といった会話をする。「前にも話したかもしれないけど、上京した日に羽田からモノレールに乗って〜」という話をしてくれて、それはまさにちょうど1年前に一緒に文フリに出展したときに聞いた話だった。「そうね。聞いたね」と笑いつつ、大切な記憶なんだなと思う。

 

流通センターに着いてブースの設営。といってもそんなに大したことはなくて、パイプ椅子を広げて机に本を並べ、手前にMが作ってくれた新刊のポスターを貼るだけだ。ボランティアの方が椅子と机を用意しておいてくださったおかげ。ポスターは表紙のデザインをより強調したもので、並べて貼るとなかなか目を引くブースになったと思う。

開場までの間、雑談しながらふろくペーパーを折り、旧刊と新刊、それぞれの本の最後に挟み込んでいく。新刊のほうは前回の日記にも書いた通り自信がなかったので(内容に自信がないというより、蛇足にならないかという点で迷っていた)、まずMに読んでもらった。不安をかき消すような感想を言ってくれて、よしじゃあつけようか、とようやく腹が決まる。

二人で粛々とペーパーを折り、挟みながら、人に相談して何かを決めることについて考えていた。よく「背中を押す」などと表現されるけれど、この表現にしっくりきたことがあまりない。(危なくない?)と、なぜか駅のホームなどにいる感じで思ってしまう。個人的には「責任を〈持って〉もらう」という表現が、一番近いと感じる。ただ、それはいわゆる責任を負わせるということとは違っていて、物質的に持ってみてもらうイメージ。ボールペンの書き心地や、楽器の音色を確かめるみたいに。そして、感じたことを伝えると同時にすべて返してくれたらいい。私が人に相談を受けた時も、そんなふうにできたらいいなと思う。

 

もうすぐ開場の時間だった。はじまる前にトイレへ行こうと外に出るとものすごい行列で、戻ってMに「すごい行列だったよ」と伝える。そしてすぐに「行列がすごいんで、少し早いけど開場します」とアナウンスが流れて、入り口のあたりが賑やかになる。
開場後は一気に人が流れ込んでくるイメージがあるけれど、コロナ禍なので検温、手指消毒、COCOAの確認などがあるので、場内に人が滞留するまではタイムラグがある。さらに私たちのブースは入り口から遠い壁際なので、最初のうちはあまり人が来なかった。

はじまる前は胃が痛かった。だけど緊張している実感がなくて、本当は緊張しているから胃が痛いのか、胃が痛いのを緊張から来ているものだと解釈しているだけなのか、よくわからないなと思う。どちらにせよ、1時間もすれば痛みは感じなくなっていた。途切れず、というほどではないけれど、けっこう足を止めてくれる人が多くて、なんだかんだと忙しかった。

知人や友人、どこかで私のことを知って来てくれた人、たまたま足を止めてくれた人、さまざまだけどそれぞれにうれしい。私が数年前に書いたブックレビューを読んだという人が(おそらく偶然通りがかって)「こんな記事書いてましたよね。あの本買いました」と言って日記を買ってくれたり(うれしいし、数年前に読んだウェブ記事の筆者の名前を覚えてるって、その記憶力が単純に羨ましい。私は人の名前を本当にすぐ忘れてしまう)、インターネットでは面識があるけど対面したことがなかった人が遊びに来てくれたり、本当にたくさんの人と話すことができた。

けっこう真剣に立ち読みしたあと買わずに立ち去って、ダメだったか〜と思っていたら数時間後にまた来てくれた人のことも印象に残っている。その人は500円玉2枚を差し出しながら「今日、財布忘れちゃって。友達のブース手伝ったお小遣いで吟味して買ってるんですよ」と話してくれた。最高すぎる。文フリでそんなほっこりエピソードに遭遇できるとは思わなかったし、吟味して選んでもらえたのもありがたい。

「表紙が/ポスターが気になって」と足を止めてくれた方もたくさんいた。「目立ちたい!」と、目に付く黄色を多用したおかげだ(黄色なのは目立つためだけではないけど)。デザインをしてくれたMが隣にいるので「彼が作ったんですよ」と紹介できるのもうれしかった。

 

自分も知り合いや気になっているところなど、いくつかのブースへ行く。でも、まわるのは最小限。自分がいないときに誰かが来るかもと思うと、その人と話したい気持ちが上回ってしまうのだった。そうしてあっという間に17時。段ボールに詰めていたぶんはすべて売れて、念のためで持ってきていたぶんがなかったら足りなかった。それだけ多くの人が手に取ってくれたんだな、と思う。満ち足りた気持ちで閉幕。運営の方のアナウンスが流れ、出展者みんなで拍手。

 

帰りのモノレールがキキララのラッピング電車で、外側に電飾までついてるしかわいすぎてはしゃいで写真を撮る。だけど混雑していて、あまりいい角度では撮れなかった。新宿まで出て、Mと少し打ち上げ。やらないといけない仕事などもあったので早めに解散して、充足感を胸に家へ向かう。

 

今日の新規陽性者数は17人、現在の重症者数は8人、死者0人。