ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

途中で気づく[2021年10月1日(金)雨のち曇り]

今日から10月。台風が来ていて、日中は東京でも雨風が強くなりそう。夕方出かける時には落ち着いているといいなと思いながら、家で原稿を1本書く。昼食は先日買って食べ損ねたコンビニの千切りキャベツ、インスタントのみそ汁、玄米を混ぜたご飯と納豆。主菜がないが、玄米だとなんとなくそれでもいい気がしてしまう。たとえば白米に塩だけかけて食べることはまずないけれど、玄米だと塩だけで食べてもいいと思える。これは何の刷り込みによるものなのだろう。

 

原稿が早めに終わったので、来週やろうと思っていたこまごまとした作業を前倒しで。そのあとはエアーポケットのように仕事がない時間が訪れたので、昨日「軽いものが読みたい」と思って買った岸本佐知子『ねにもつタイプ』を読む。

2019年に発売された同エッセイシリーズの最新作『ひみつの質問』は大爆笑しながら読んだのだったけど、その第一弾であるこの『ねにもつタイプ』は個人的にはそこまで。なんとなくその想像力の広げ方に既視感がある。ただ、それはおそらくこのエッセイが何かを真似ているというよりは、このエッセイに影響を受けた後発の作品や書き手がたくさんいて、私がそちらに先に触れてしまったからではないかと思う。まあそういうこともある。だからなのか、妄想・ユーモア炸裂というより、寮暮らしをしていた頃の奇妙な寮母さんとか、高校の頃に学校に来ていたパン屋さんとの文通のような、現実との境目があいまいな話のほうに惹かれた。脚の長さが1本だけ短い椅子に座って、収まりの悪さを覚えながらつい何度もぐらつきを確かめてしまうような、そういう楽しさがある。

 

17時過ぎに出かけて代々木上原の病院へ。風は強いけど雨はほとんどやんでいて、夜には完全に上がるそう。台風はもう去ったみたいだ。オリジナルラブのトリビュートアルバム『What a Wonderful World with Original Love?』を聴きながら電車に乗る。原曲が好きというのも大きい気がするけど、小西康陽「夜をぶっとばせ」Yogee New Waves「月の裏で会いましょう」の流れが良い。「夜をぶっとばせ」は田島貴男が在籍していた頃のピチカート・ファイヴの曲だから、小西康陽のセルフカバー的な側面もあるだろうか。作詞も小西康陽だけど、このカバーではほぼインストになっているのを美しく思う。歌はないけれど、主旋律をなぞりながら自然と歌詞が心のうちを流れていく。

 

手術の経過は良好だという。「傷もきれいに治っていますね」と言われ、なんとなく褒められた気分になる。私が努力していることは特になくて、周辺の細胞が頑張ってくれているだけなのだけど。

そのあとでMと合流。今作っている新しい日記本の表紙の打ち合わせのため。改札で待ち合わせて、「(対面で)会うのって3ヶ月ぶりくらい?」と驚き合う。オンラインでは定期的に話していたのでそんな感じはしなかったけど、考えてみればそのくらい久しぶりだ。

代々木上原って一人で来るから飲食店ってよくわからない」「わかる」「昨日で緊急事態宣言もまん延防止措置も解除になったけど、飲食店の営業やアルコールの提供には制限があるらしい」「よくわかんないね」と話しながら駅のあたりをうろついて、通りにあったイタリアンのお店に入る。Mに言われて、そこが『大豆田とわ子と三人の元夫』でかごめがコロッケを選んでいた店だと気づく。

 

コロッケやらピザやらをオーダーして、まずは表紙の話。いまだにタイトルが確定していないのだけど、イメージや、日記を書いたり読み返したりしながら考えていたことを伝える。前作の『消毒日記』とつながりを持たせたいが、今作は今作で独立していてほしくもあり、そのバランスが悩ましい。だけど思考の壁打ちに付き合ってもらったおかげでなんとなく固まってきた気がする。デザインを具体的に立ち上げてくれるのはMなので、まずはそれを待ちながら私は原稿を進める。急遽、収録する期間を少し伸ばすことにしたのだ。こうしてああだこうだ話しながら作るのは楽しい。

私が自分の考えを長く話している途中でピザが運ばれてきて、食べてめちゃくちゃおいしいなと思いながら話す方を優先する。ひと段落したところでMが素早く「っていうか、ピザめちゃくちゃおいしい」と言って、うまく言えないのだけどその時にああ、こういうのが人と食事をする醍醐味だったと強く思った。

日記本の話のあとは街で見たことのある有名人(私は宇都宮けんじと斎藤工。Mは上京してはじめて芸能人を見たのが、銀座の三越に入っていくデヴィ夫人だったという)とかのかなりどうでもいい話もして、気づいた時には9時過ぎ。閉店の時間になって、会計を終えて席を立つ。奥に座っていたから気づかなかったのだけど、店内はけっこうにぎわっていて、どのテーブルの人たちもまだ店にとどまっていたいように見えた。人と集まるのが久しぶりという人もいたかもしれないし、何時までやっているのか、アルコールを出しているかなどが店によってばらばらなので、二軒目を探すのが大変という理由もあるのかもしれない。その様子を見て、「あんなに長い緊急事態宣言はこれで最後にしてほしいね」と言う。思ったことをただ口にしただけだったのだけど、途中で急にその言葉が実はすごく重いもののように感じられて、最後の方は気持ちと話し方が分裂してごにょごにょとした喋り方になってしまった。

 

今日の新規陽性者数は200人、現在の重症者数は93人、死者14人。