ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

今が谷底[2021年6月19日(土)雨のち曇り]

雨の中2週間ぶりの病院(肛門科のほう)。先生が髪を切ってツーブロックになっていて、(事件や事故に遭う可能性のある髪型だ)と反射的に思う。病院へ向かう電車でもサイドを刈り上げている人を何人か見たけど、夏らしくて快適そう。私も次に髪を切るときはツーブロックにしようかなあ。

ひとまず経過は良好だという。実際、自分でもここ数日は体を洗う時に患部が塞がって小さくなってきているのを感じていた。患部に当てているガーゼの交換も、1日2回だったのが1回でよくなってきている。しかし先生は「多分、根治手術は必要になると思いますが」とさらっと言っていて、少し釘を刺された気分。1ヶ月かけてようやく治ってきたのに、根治のためにまた手術しないといけないって(しかも次回のほうが大がかりで、多分入院も必要)考えるだけで気が滅入る。まあ、放置してまた再発するかもしれないことを考えたら、やらなければいけないとは思うのだけど。

次回は4週間後で、この時に手術が必要かも調べることになりそう。予約のために受付でカレンダーを見ながら、4週間後って東京オリンピックの直前だと気づく。少し前まで開催の可否が問われていたのがいつのまにかやるのが前提になっていて、議題は無観客か有観客かになり、今は5000人なのか1万人なのか、みたいな話をしている。なし崩し的に規模が大きくなっているし、賛成できない祭典に巻き込まれて街や生活を乱されるのが本当に嫌すぎる。

 

まっすぐ家に戻って打ち合わせ2件、それから少し仕事。合間にそばを茹でて食べる。家に残っていた乾麺のそばだったけど、味も風味もなくて無を食べているようだった。

乾麺タイプのそばはいまいち自分の中で「これを選べばOK」というのが定まっていなくて、はずれを引くことがままある。これはおそらく恋人が買ってきたものだけど、正直かなりはずれの部類……。小川製麺の「山形のとびきりそば」という、パッケージに「平成で一番売れた」というシールが貼られているものがおいしかったのであれば買うようにしているけれど、平成で一番売れたわりには売ってないスーパーも多い。

 

夕方、手術のため行けていなかったプールへ1ヶ月ぶりに泳ぎに行く。1ヶ月前は区によってはプールが休館していて、そのせいで人が集まってくるのかかなり混んでいる、という「本末転倒」の例文みたいな状況だった。今はだいたいどの区も開いているようなので、人が分散して空いているんじゃないかと淡い期待を抱いていたが全然混んでいた。夏めいてきてプールの利用者自体が増えているのだろう。

個人利用は2レーンしかなく、しっかり泳げるのは1レーンだけ。久しぶりなので自分のペースで泳ぎたかったが、前の人が遅くてつかえたり、逆に後ろの人が速くて詰められたりしてばっかりで、なかなかうまくいかなかった。そしてやはり体がなまっていて、がんばって泳いでいても思うように前に進まないし、すぐに疲れて休憩したくなってしまう。

結局、休み休みで泳げたのは1300m。スピードも距離もだいぶ落ちてしまったが、泳ぎ続ければ取り戻せるはずだ。今が谷底で、ここからは上昇していくだけだと思えば気力も湧いてくる。

 

CHAIの新しいアルバム『WINK』を聴きながら、鶏むね肉とアスパラとズッキーニのレモン炒めを作る。それぞれの食材を炒めたあとに酒、砂糖、しょうゆで味付けし、仕上げに輪切りのレモンを1個分入れるのだが、見た目も華やかだし酸味もさわやかでおいしかった。最近また料理が楽しく、これまで作ったことがなかったレシピをいろいろ作っている。恋人は出かけているため一人で夕飯。多めに作ったので、余りは明日パスタにあえて食べてもよさそう。

 

夜は5人の作家のアンソロジー『緊急事態下の物語』を読む。最初に収録されている、金原ひとみによるコロナ禍を生きる女子中学生が主人公の「腹を空かせた勇者ども」がすごくよかった。

主人公の玲奈は母親の不倫相手が陽性になったことで自分も濃厚接触者疑いになり、気合を入れて準備していたバスケットボールの大会に出られなくなる。さらに、自分が陽性だったらチーム自体が大会に出られなくなる。そうした状況の中で、玲奈は母親に対して自分が濃厚接触者になったこととその原因が母の不倫相手からであることをまぜこぜに不満をぶちまける。母親はそこで「私たちはとても注意して生活していたし、どんなに気をつけていてもかかる時はかかるのだから、陽性者を責めるべきではない」という、取りつく島のない”正しさ”をかざす。

自分が影響を受けることを仕方ないと思えず、濃厚接触と母の不倫への苛立ちを切り分けずにぶつける玲奈は未熟だが、その激しい感情に接していると「そもそも、それって切り分けられることなのか?」という問いを突きつけられるようでもある。感情と新たな時代の倫理観がぶつかり合いながらスパークしていた。

一方で玲奈は他人の感情や尊厳を大事にする人でもあって、同級生の悩みを聞いたり、年上の中国人留学生の話に心を痛めたりする。その様子には読んでいるこちらの心が慰められる気さえする。他者の痛みを受け止める姿勢もまた、新たな時代の倫理観の一つだ。

「みんな問題を抱えているし愚かだけれど希望はある」という、ハードだけどどこか爽やかな作品だった。金原ひとみは「新潮」20年6月号で「アンソーシャルディスタンス」という、コロナ禍を描いた小説をかなり早い時期に発表していて、これが表題作の作品集も最近出ていた。これも読みたい。

 

今日の新規陽性者数は388人、重症者数は43人、死者4人。