ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

違う立場[2021年4月29日(木・祝)雨]

7時ごろ起きて、昨日の夜疲れていてできなかったメールの返信など。恋人は昨日からの腹痛がまだ治らないそうで、「病院行こうかな……」と心細そうな声で言っている。お弁当に持って行った鶏肉が生焼けだったらしい。熱や他の症状はないみたいだけど、ただの腹痛にしては長引いているのでちょっと心配。しかし今日は午前中から「Books & Something 2021(ブクサム)」の手伝いがあるので、気にしつつ支度をする。

タバブックスの宮川さんが「うちのブースでZINE売ってもいいですよ!」と言ってくれたので、『消毒日記』を持っていくことに。なんだかんだで2刷も残り少なくなってきていて、もう一回刷るかどうか悩ましい。イベントに出すとそれなりに売れるし、コロナの真っ只中の記録として面白く読んでくれる人もいる。記録としての日記の価値は時間が経つごとに増していく手応えがあるけど、書いた本人としては時間が経つほど当時の自分と距離が開いていくので、それを売り続けることにやや違和感がある。この日記を書き続けることで違和感を埋め、当時と今を地続きのものにしているつもりだけど、ZINEというかたちになっているものの強度はやっぱり高い。続編を作るべきなのだろうか。日記ではなくても、何か今の自分が書いたものを。

特典としてつけているペーパーを準備しようとしたらもう3枚くらいしかなく、慌ててコンビニへコピーしに行く。出かけるついでに恋人に何か買ってきてほしいものがあるか聞くと、「経口補水液とゼリーの飲み物……」とまた弱々しい返事。小雨が降るなかファミマへ。経口補水液はなかったのでグリーンダカラとウイダーinゼリーなどを買う。

 

帰ってきたら恋人は再び眠っていたので、枕元にダカラを置いてあとは冷蔵庫へ。準備を終え、朝食を食べながら祝日でも診療している近所の内科を調べる。別にそのくらい恋人自身で調べられると思うのだが、先回りするようについやってしまう。

こういうちょっと過保護なサポートの仕方は完全に母親似。当時はそれを疎ましく感じたこともあったけど、今は母がどんな思いに突き動かされていたのかがちょっとわかるから、少し違った立場から受け取れるように思う。よさそうなクリニックを見つけて、恋人にLINE。iPhoneが短く振動する音が聞こえた。

 

雨はさっきよりも勢いを増していて、『消毒日記』が濡れないように気をつけながらバス停まで歩く。環七通りをまっすぐに走るバスで、会場の新代田Feverへ。

ブクサムは本当は1月に開催予定だったけど、緊急事態宣言の発出によって延期に。その延期後の日程がまた緊急事態宣言と重なってしまったけど、今回は開催を決めたようだった。いくつか直前で出展を見合わせるところもあったけど、そこにはそれぞれの判断がある。

 

私の今日の仕事は受付スタッフ。来場した人がマスクをしているか確認し、手指消毒と検温をお願いする。自分が客側の場合、入り口での検温や消毒はもはやほとんど流れ作業のようにこなすだけになっていたけど、運営側にまわってみると本当にしっかりやらなくてはという気持ちになる。責任重大で緊張。幸い、ほとんどの人が言われる前から消毒をしてくれたし、検温の際には自ら髪をあげて額を出したり、エラーが出てこちらがもたついても嫌な顔せず待ってくれたりする人も多くてありがたかった。

緊急事態宣言中だし、雨も降っていたからどのくらい人が来るかわからなかったけど、けっこう賑わっていたように思う。しかし一度にたくさん来ると入場制限をしなければならず、混んでるかもと思ったらその都度、交通量調査で使うようなカウンターで場内の人数を数えた。たくさんの人が楽しそうに集まっているのをそのまま喜べないのは、ブレーキとアクセルを同時に踏んでいる感じですり減る。

こうしたイベントや接客を毎日の仕事にしていて、自分や働いているスタッフの生活もかかっている人が感じる重圧や複雑さに少し触れた気がした。もちろん、私が関わったのは時間も責任も本当に少しだけだから、そのすべてを理解するには程遠い。それから日常的にその環境に身を置いていることで、やり抜く術や気持ちの落としどころを見つけている人もいるだろうから、感傷的になりすぎるのも勝手というか、それを生業にしている人たちの力を軽視することにつながる気がする。だからどう書くべきなのか、書きながらよくわからなくなっているのだけど……あらゆる判断には単純に言い切れない感情や込み入ったプロセスがある(それは本人が言語化できていない場合もある)ということを、何かをジャッジする前に立ち止まって考えたいと思った。なんか当たり前のことを言っているようだけど。

 

13時に私のシフトが終わり、Mとバトンタッチ。Feverの店内に併設のレストラン「POOTLE」から差し入れでいただいたバインミーを食べる。受け取ってから少し時間が経ってしまったけどチキンがまだほんのり温かく、パンも肉もやわらかかった。

雨があがっていたので、Feverから出て近くにあるエトセトラブックスへ行ってみる。フェミニズムに関する本を中心に扱う書店。棚をじっくり眺め、『「テレビは見ない」というけれど』『イラストで学ぶジェンダーのはなし』の2冊を購入。色々気になる本は多かったけど、結局ほかの書店でも取り扱いがありそうな新刊を選んでしまった。今度また行きたい。

 

エトセトラブックスを出た時にはまた雨が強くなっていた。不安定な天気。近くにあった喫茶店に入って、Mのシフトが終わるまで読書する。Mと一緒に会場をまわって、また何冊か本を購入。ナナロク社が自社の本にふせんを貼って用紙や造本についてわかりやすくしたものを並べていて、造本や紙に興味があるMが大興奮していた。

途中で恋人にLINEで具合を聞く。病院で診てもらったところただの腹痛のようで、出された整腸剤を飲んで安静にしているという。「常に痛い場合や、呼吸したり歩いたりした時に響く痛みは大変ですが、波のある痛みは基本的に大丈夫。このタイプの症状は医者としてもできることが少ないんですよ」みたいなことを言われたそうで、なんとなく腑に落ちる。深刻ではないと聞いて安心したのか、15時からの歯医者も予定通り行って親知らずを抜いたと言っていた。タフだな。