ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

懐かしさ[2021年4月2日(金)曇り]

小田急線で、小学生から社会人の一年目まで生活していた街へ久しぶりに行く。祖父の葬祭費の申請のため。葬儀にかかった費用は役所に申請すると5万円の補助が受けられるのだけど、葬儀を行った日から2年以内に申請しなければならない。祖父が亡くなったのは2019年の4月下旬だから、期限が迫っていた。2年もあればどこかで行くだろうと油断していたら、こんなタイミングになってしまった。

 

この駅で降りたのは1年ぶりくらい。昨年までは実家があったけど、母が一人で住むには広すぎたし、兄弟が暮らすには駅から遠かったり色々あって現実的ではなく、それも手放してしまった。もうこの街に家族は誰も住んでいないし、特に連絡を取り合っている知り合いもいないから、訪れることはこの先ほとんどないだろう。機会がなければ、これが最後ということさえあるのかもしれない。

駅構内のトイレを借りる。途中で改装しているとはいえもう十数年は経っていると思うけど、清潔で、古びた感じはしない。あんまりあからさまに朽ちたりはしないものなのかなと思いながら外に出る。区役所を目指す途中、線路越しに通い慣れた商業ビルが視界に入って、こんなに壁が汚れていたっけ、と思う。外壁は手入れが大変だから、経年の影響が見えやすいのだろうか。そこまで考えて、妙に感傷的になりたがっている自分に気づく。もうここで暮らしていない自分にとっては、新しいお店ができることも、当時からあったものが古くなっていくことも、どちらも失われていくことだ。だからやろうと思えばいくらでもノスタルジーに浸れる。自分にとって更新されないことと、街が古くなっていくことを取り違えてはいけないと胸に留めておく。

 

役所の人に「期限ギリギリでしたね」と少し笑われながら、無事に申請を終える。駅の周辺を少し見てみようかと思ったけど、色々とやることもあるので今日のところはとんぼ帰り。区役所から駅まで、行きとは違う道を歩いて、もう他界した父にこのロータリーまでよく迎えに来てもらったことなどを思い出す。

 

この2週間、仕事がほとんどなかった。だからもっとゆっくりする予定だったのだけど、先週はZINEフェスに出展することを突発的に決めたからその準備(出展を決めたのは仕事がなくて身軽だったからでもあるし、身軽すぎて不安だったからでもあると思う)、今週はなんだかんだで色々とやることがあって、結局まったくゆっくりはできなかった。というか、むしろ押しているくらい。

しかも今週半ばから、来週以降の予定が一気に決まっていった。ありがたいことだし、まだスケジュール的に多少余裕もあるのだけど、決まっていくペースが速すぎて、何も着手していないのにすでにちょっと疲れている。そして、最近は月末〜月初めはだいたい少し暇になっているなと思う。今の自分の仕事はそういうリズムになっているのかもしれない。

頭をからっぽにしたくて、このまま下りの電車に乗って江ノ島にでも行ってしまおうかと思う。海をぼーっと眺めたい気がした。でも、ぼーっとするのが苦手で、すぐに手や体を動かしたくなってしまうから、思うようにはくつろげないだろう。誰かと一緒ならリラックスできるかもしれないけど、人と話したい気分でもなかった。

 

上りの電車に乗って、音楽を聴きながら車窓の景色を眺める。学生の頃を思い出すような気持ちになるけれど、具体的な記憶はほとんど浮かび上がってこなくて、抽象的な懐かしさを持て余した。新宿に近づくにつれて下北沢とか、代々木上原とか、今でも訪れる駅が増えて、その気持ちもいつの間にか景色の中に雲散していく。