ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

テレビ雑感[2021年1月2日(土)晴れ]

年末年始特有の清々しさが空気中に漂っているのを感じつつも、なんだかからっぽで過ごした大晦日と元日だった。雲ひとつない青空を見てなぜか不安になってしまう時のような感覚だ。

だらだらとおせちを食べたり流れているテレビを見たりしているだけで、年末年始に読みたいと思っていた本もほとんど読めず。昨日の夜は「明日から少しずつ戻していこう」と思って寝たけど、起きたらなんか無理っぽく、読書よりは受動的に情報を得られるもの(ポッドキャストやテレビなど。あくまで私個人の感覚)を消化して過ごそう、と決める。

 

白湯を飲みながら録りためていた「100分de名著」の『ディスタンクシオン』の第3・4回。先に読んでいたテキストの内容を思い出しながら見る。岸さんは自分なりのブルデューの解釈、および自分の経験から導き出された感覚として「他者の合理性」という言葉を使っていて、それを理解し続けようとすることが自分にとっての社会学なのだというようなことを言っていた。テキストにはこんな言い回しもあって、らしいなあと思う。

 

他者の合理性とは「その状況だったら僕でもそうします」という話です。

 

この「状況」とは「突然10万円を手渡されたら何に使うか」という短期的な話だけではなくて、その人の職業や家族構成、学歴、経済的な状況、趣味、生まれ育った環境といったあらゆる要素を含むのだと思う。そしてこれは職業なら職種、勤続年数、職場での地位、収入などさらに細分化していく。そのひとつひとつを丁寧にたどっていった上で、「その状況だったら僕でもそうします」と言うこと。その途方もなさを、「その状況だったら僕でもそうします」という、誰かの話を親身に聞いた経験がある人なら一度は言ったことがあるんじゃないかという言葉と結びつけるところがすごくいいなと思った。

 

ふとTwitterを開くとけっこうみんなテレビの感想をつぶやいている。紅白歌合戦のアカウントでは各出演者の歌のハイライト部分を30秒ほど動画にしてアップしているようで、氷川きよしの映像が流れてきていた。今年の紅白を思い返す。無観客、コロナ禍ならではの演出が多くて、いつもの「支えあおう」「みんなで頑張ろう」みたいなメッセージが思わずぐっとくる場面もあったのだけど、音楽で特にこの人が良かった、というのはいなかったように思う。

氷川きよしのパフォーマンスは話題にはなっていたけれど、楽曲も去年と同じだし、ちょっと新鮮味がなく感じてしまった。それに「紅組白組のカテゴライズを、内側から破壊しようとしてくれる人」というポジションに押し込められているとも感じる。氷川きよしは「そういう人」として切り取られ、紅白の男女による組み分けを解体したい人は溜飲を下げ、体制自体が揺さぶられることはあんまりない、みたいな……。ただ、氷川きよしがその予定調和に割り切ってのっかっているかというとそんなことはなく、エネルギーをものすごく使って立っていると思う。勇気付けられる人もたくさんいるだろう。だからこそ、それが役割になってしまってほしくないな、と思った。

その点で今年一番紅白を揺さぶったのは、瑛人の「俺、何組ですか?」発言だったと思う。

瑛人はそもそも白組は男性、紅組は女性というのを気にせず見ていたそうで、何かしら意図があってこの発言をしたわけではないんじゃないかと思うのだけど、こういう素朴な実感が炙り出すものってある。「男女混合ユニットが時と場合によって紅白どちらで出ることもあったりして、たしかに形骸化していたよね」みたいな。そしてその方が遠くまで届くということもあり得るんじゃないかと思う。もちろんその瑛人の実感を形作った背景には、問題意識を持った人が少しずつ社会を変えてきたという側面があるのだけど。

しかし「香水」は2020年脳内でよく流れた曲だった。フルで聞いたことはほとんどないのだけど、サビのメロディが耳に残る。音階が「おどるポンポコリン」と同じため歌詞だけハックされてしまい、香水のメロディで瑛人が「ピーヒャラピーヒャラ」と歌っているのが脳内でよく流れた。派生して「ドールチェドールチェ…」と延々繰り返す日もあった。

 

お昼は恋人が初売りに出かけていないので、一人で即席ポトフ。鍋にコンソメキューブとソーセージとキャベツを入れて煮て、仕上げににんにくチューブと胡椒。ここ数日暴食気味だったのでこういうものがほっとする。そのあとは何か本を読もうかと思ったけど、つい眠くなってしまって2時間ほど寝た。起きたら恋人が帰ってきていて、それから夕方までは何をして過ごしていたのかあんまり記憶がない。具体的に何かを楽しんでいたわけではなかったのだろう。

 

19時過ぎから夕食の準備。私の母が年末に送ってくれたいい牛肉を解凍して、すき焼き。おいしかったが良い肉すぎてすぐに満足してしまった。

21時からは『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』をリアタイで。冒頭から選択的夫婦別姓の話、夫は子育てを「サポート」するのか問題、ゆりちゃんの同級生のレズビアンの話など、日本が抱えているジェンダーの課題てんこ盛り。

男性の生きづらさを描いた点は特に興味深くて、家事と仕事でいっぱいいっぱいになった平匡さんが弱音を吐き、不安に共感してもらうことでケアされるシーンはハイライトだったし、平匡さんが育休を取得するシーンでは男性の1ヶ月の育休を認めない上司を、社内の人間関係とは別のところに位置する人も交えた複数人で説き伏せていて、そうかやっぱこういう飛び道具っぽいやり方になっちゃうか、と思いもした。現実で育休をとりたいと思っている人が同じようにやるのは難しいなと思ったし、「一人で戦うのは難しい」と言われた気もした。

本音を言えばこの視点でもっとひとつひとつを深掘りしてほしかった。平匡さんに「男=一家の大黒柱」として責任を説いていた父親が調理家電や平匡さんが台所に立つ姿を見て変わっていくのも素直すぎる感じがあったし、先に触れた上司との育休をめぐる問題もなんというか、一直線だったなと思う。男らしさ問題、直線で解決することはまずなくて、一進一退やとんでもない回り道をしながら少しずつしか解決していかない印象がある。1クールドラマで時間をかけて、もっとそのへんを見たかった。

 

しかしドラマの中では4月の緊急事態宣言が描かれていて、その日の昼に都知事らが再度の緊急事態宣言の発出を国に要請するというのもすごいタイミングだなと思う。