ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

文フリのこと[2020年11月22日(日)晴れ]

昨日の夜、恋人が届いたばかりの『消毒日記』を読みはじめ、私が寝る時間になっても読み続けていた。「そんなに一気に読まなくてもいいんじゃない」と言うと、「たしかにもったいないんだけど、せっかくだから世に出る前に読み切りたい気がして」と本に目を落としたまま言う。1時をまわっても読み続けているので先に寝たけれど、なんだかそわそわしてうまく眠れなかった。

2時過ぎ、トイレに行こうとベッドから出ると恋人はスマホを見ていたので、読み終えたのだと思って感想を聞く。ぐっ、と親指を立てられた。眼鏡をしていなかったので、表情はよく見えなかった。

 

朝になって、まだ寝ている恋人を横目に出かける準備。今日はいよいよ文フリ当日だ。昨日Twitterでちょっと話題になっていたセブンイレブンポンデケージョをチンして食べる。モチモチしていておいしかったけど、食べている途中で「イベント中はあんまりご飯食べられないし、腹持ちが良いものを食べた方がいい気がする」と思って、追加で納豆ご飯を食べた。

『消毒日記』に付録的につけようとしている11月18日の日記について思いをめぐらせる。1箇所、これでいいのか迷っているところがあったのだけど、食べている最中に最適解を思い付いて、急いで修正。データをアップし、近所のコンビニで印刷してから電車に乗った。東京モノレールにはあまり乗ったことがなかったけれど、どこかゆりかもめと似た雰囲気でときめいた。

 

11時にMと流通センター駅で待ち合わせて会場へ。12時の開場までに準備をするのだけど、10分くらいで終わってしまった。まあよく考えたら本を並べて、Mが昨日作ってくれたポップを並べて終わりなので、そんなに時間がかかるはずがない。だけど手持ちぶさたになるということもなくて、私は付録の紙を折って挟み込んだり、MはMで準備をしたり。Mの作品は「メロディのない歌詞の詩集」というコンセプトで、紙ジャケのCDのようなデザインになっている。そのCDに歌詞カードを挟み込む作業をしていた。

12時に開場。お客さんが入ってくるけれど、私たちのブースは入り口から遠いところにあり、最初のほうは人の入りもゆるやか。こういう出展をしたことがないのでどうすればいいかわからず、なんとなくお茶を濁すように買ってきたパンを食べたりMと話したりしていたのだけど、隣のブースの人が通りがかる人にとにかく積極的に声かけをしている。テー24、ゆるふわ未亡人のゆうこさんだ。買わずに立ち去ってしまう人にも名刺を渡したり、空いた時間でYouTube配信をしたり、とにかく手を休めない。そのアグレッシブさに影響されて、私とMも少しずつ声かけをするようになっていく。ゆるふわ未亡人さんの迷いのない声かけを見ていなければ、5時間地蔵のように座っているだけだったかもしれない。かなり鼓舞された。

 

最初こそそんな感じだったものの、しばらくするとけっこう色んな人が来てくれた。コロナで人も少ないだろうし、10部くらい売れたらいいかと思っていたのだけど、最初の一時間で目標を達成。友人も来てくれたし、Twitterを見てくれていて今日がはじめましてだった人もいた。それから、「コロナ期間中の日記を集めてるんです」という人も複数人。

売る立場になって思ったけれど、声をかけるタイミングやテンションは本当に難しい。声をかけたことで逆にブースに近寄りづらくなることもあるし。私自身が積極的に声をかけられたり話をされたりすると立ち去りたくなってしまう人間なので、無関心とも関心があるとも言えない微妙な距離感でこちらを見てくる方、目を合わせてくれない方を見かけるたび(わかる……)と猛烈に親近感を抱いた。でも、まったく声をかけないと素通りされることも多くなるし、その塩梅が難しい。

だけどやってみて思ったのは、立ち止まってもらえるだけでかなりうれしいということ。そして面白そうと思えないのに買ってもらうのは申し訳ないという気持ちが大きいので、最終的に買ってもらえなくてもそこまでがっかりはしない。これからは興味があったらとりあえずきちんと立ち止まろう、と思った。

ただもちろん、買ってもらえるのが一番うれしいのは間違いない。たまたま会場をめぐっていて、あるいはウェブカタログを見て気になったという人も予想以上にたくさんいて、文フリという場の力、そしてデザインの力だなあと思う。本を読むとわかるのだけど、タイトルは私が命名したものではないので、一見さんが足を止めてくれるとしたらそれはほぼ自分以外の人たちのおかげだ。

 

最初の1、2時間は思ったよりもハイペースで売れて、「持って来たぶんがなくなっちゃうんじゃないか?」なんて調子に乗ったことを考えたけれど、2時過ぎくらいから動きが鈍化。人の流れも落ち着いてきたし、私自身もちょっと疲れてきた。息抜きも兼ねてブースをめぐる。でも、離れているあいだに自分のブースに興味を持ってくれる人がいたら話したいという気持ちがあって、事前に目を付けていたブースをぱぱっとめぐるくらいしかできなかった。事前に目を付けていたと言っても、基本的には「ブースを見ながら物色しよう」と考えていたので、SNSでフォローしているとか、流れてきたとかばかり。もっとしっかりウェブカタログを見ておけば違っただろう。これはちょっと失敗だった。

 

16時台になってもゆるゆると売れ続け、本当に思っていたよりもずっと多くの人に手にとってもらうことができた。17時になって会が終了し、主催の方のあいさつのあと全員で拍手。その会全体に向けられた拍手を、自分にも降り注ぐものとして受け取るくらいには楽しんだ。そう思えたのは、足を運んでくれた方一人一人のおかげだ。来てくださった方、本当にありがとうございました。多分みなさんが思う以上に励まされていて、これからも続けていこうと思う力になりました。少しでも楽しんでいただけたらうれしいです。

楽しかったねー、と言いながらMと片付けをして、会場を後にする。外に出て、一度マスクを外して深呼吸をする。後半、実はちょっと酸素が薄く感じていた……。空気がこもっていたからというよりは、ずっとマスクを着用し続けていたからなのかもしれないが。長時間マスクをつけているとどうしても酸欠になってしまうし。

会場では入り口の検温、消毒、マスク着用に加え、ドアを開け放つなどの換気もされていて、徹底した感染対策が確実に行われていたから、運営に問題はまったくなかった。自分のブースに消毒用のジェルなどを置いている人も多かったし、みんなで気を付けていたようにみえた。だから基本的には安心しているのだけど、もしかしたら、ということが有り得るのがコロナだ(そして書くまでもありませんが、仮にそれが起きたとしても対策を徹底していたのなら誰のせいでもないです)。ひとまず、しばらく自分の体調はしっかり注意していようと思う。

 

流通センター駅から東京モノレールで浜松町へ。ブースに遊びに来てくれたIが「キキララのラッピング電車に乗った」と話していて、Mと二人で「帰り絶対乗りたい!」と言っていたのだけど、完全に忘れていた。少し心残り。新宿まで行って、三丁目の中華屋のテラス席で打ち上げをした。

 

 

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