ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

フェイクパール[2020年11月1日(日)晴れ]

恋人もこの週末仕事だし、私もやることが多いし、日曜日という感じがしない日曜日。そして今日から11月。それにしては温かく感じるし、今年があと2ヶ月で終わってしまうのも実感が湧かない。

朝から原稿の編集作業。ライターの方がしっかり書いてくれたおかげで、こちらで手直しをする必要がほとんどなくてありがたかった。いくつか気になった点をコメントして戻す。それから、昨日サボったぶんも含めて日記を二日分書いた。

 

昼過ぎ、『荻上チキ・Session』を聞きながら出かける。木村草太さんと麻木久仁子さんがゲストの「ニュース座談会・10月場所」。木村さんとチキさんの掛け合いが切れ味鋭くて痛快なのだが、「結婚の自由をすべての人に」の同性婚訴訟における国側の反論がひどすぎて絶句。「同性でも異性でも同様に、異性とであれば結婚でき婚姻制度を利用できるから区別はない」って……論理展開がアクロバットすぎるというか、人の心を介在させることを拒否しているような言葉に感じた。感情とか思考を少しでものせたらすぐに壊れてしまうような、言葉の綾だけで体裁を保っている論理。文章ならまだ書けるけど、これに同意しながら口に出せる人ってどんな人なんだろう。怖くなる。しかしここまでわけがわからないことを言ってこられると、ますます何が何でもこの裁判勝ってほしいと思う。同性愛者が婚姻制度を利用できることがゴールじゃない、という考えは変わらないけれど、こんな国の主張に正当性が与えられるようなことには絶対になってほしくない。

 

聞いているうちに原宿に到着。ムカついていたので辛いものが食べたくて、近くで辛いものが食べられるお店を検索。表参道ヒルズにある「シビレヌードルズ 蝋燭屋」で麻婆麺を食べた。麻と辣が両方効いていて、食べ進めるごとに口の中が火照りながらビリビリと痺れていく。しっかり辛いのに、たとえばハバネロのような痛さをあまり感じなかったのが不思議だった。刺すような単純な辛さではなくて、奥行きがある感じ。後半、卓上調味料のぶどう山椒オイルを入れたらさらに風味が豊かになっておいしかった。卓上調味料があったり、味変ができたりする店やメニューは5割増しくらいで魅力的に感じる。

無料の半ライスも食べたので、食後はかなり苦しかった。座って休憩したい……と思いつつ、約束があるので原宿方面へ戻る。Mと会って、今月22日の文フリのための打ち合わせ。この日記をまとめるZINEもかなり形になってきていて、今日は表紙を原寸大で印刷して、複数案から方向性を絞るため検討したりした。Mは私の言葉の節々から私が無意識にこだわっているポイントを汲み取ってくれて、その場で軽くデザインを作ってくれる。すごいなー、と思っていると、Mに「初校修正の赤字を見て、こんな風に文章をブラッシュアップしていくんだと思って感動した」みたいなことを言われた。たしかに、完成した文章を見せることはあっても過程を見せることはほとんどないので、人からしてみたら面白いのかもしれない。

でもそれはきっと自分が知らないことを仕事にして頑張っている人であればなんでも同じなのだと思う。私はMが紙の見本帳を手に、複数の紙を触り比べながら何かを考えているのにもすごいなと思ったし、全然違う話だけどスーパーの野菜の発注をなるべく売れ残りが出ないようにする、とかも同様にすごいなと思う。経験の蓄積とか、積み重ねられた技術のようなものを見ると感動する。

 

17時ごろまで打ち合わせをして、Mは帰宅、私は原宿〜表参道近辺を再びぶらつく。最近、自分が着たい洋服がわからなくなっているので、とりあえず色々と服屋を見てみる。

あまり主張しないデザインで、手入れが簡単で着ていて気楽な洋服が好きなので、油断するとユニクロばかりになってしまう。なんとなくもうちょっと派手な洋服が着たい気がしているけれど、どんなものがいいのかはわからない。街を歩いていると、今年買ったんだろうな、となんとなく思わせる秋物を着てバチバチに決めた姿の人も多くて、そういう人とすれ違うたびに自分の体がくすんでいくような感じがする。しかしなかなか自分が着ているイメージが湧く洋服が見つからず、結局一着も買わなかった。

歩きながら、サム・スミスの新しいアルバムを聴く。近年のサム・スミスの雰囲気はすごく格好いいなと感じる。短髪でしっかりヒゲが生えているのにアイメイクで目元は女性的、みたいな、男性的でもあり女性的でもある姿をしているのだ。ボブで体のシルエットを拾わない洋服を着て、男性性も女性性を消した雰囲気を「中性的」と表現することがあるけれど、それとは真逆。これも一種の中性的と表現できるのか、それとも「両性的」みたいな、新たな言葉のほうがしっくりくるのだろうか。

男女両方の雰囲気を兼ね備えた見た目には密かに憧れがあるのだけど、バランスが難しそうだし、何より自分に自信がないと中途半端になってしまいそうで、なかなか挑戦できずにいる。

ジェンダーレス」みたいな言葉はファッションの領域ではずいぶん浸透したし、最近は男性がレースのある洋服を着たり、パールのアクセサリーをつけたりする流行もある。その流れに乗じて、実は夏頃に女性物のフェイクパールのイヤーカフを買ってみたのだけど、なんだか気恥ずかしくて家に一人でいる時にしかつけたことがない。思い切って出かけてみれば大したことはないのかもしれないけれど、その一歩が自分には途方もなく大きい。

 

しかし、こうした男女両方の要素がある見た目への憧れは、自分のジェンダーアイデンティティにどれだけの深度で関わっているのだろう。男性であることに違和感を覚えたことはなくて、女性になりたいと思うこともない。でも、ただファッションとして(という言い方もファッションが軽いもののように見えるかもしれなくて本意ではないのだが)取り入れたいというのとは、ちょっと違う気がする。

 

◎お知らせ◎

今日の日記にも書いているZINEですが、『消毒日記』というタイトルに決めました。この「ヌマ日記」に加筆修正を加え、感染拡大の2・3月〜みんなの危機感が緩んでいく8月までの半年間を収録します。180ページくらいあるので、もはやジンって感じではないかも。

初お披露目は11月22日(日)、東京流通センターで開催の「第三十一回文学フリマ東京」。私のブースはテ-23で、Mこと友人の金丸稔くんとのユニット「アワ・プレス」として出展します。

文フリ後には通販などもする予定です。遠方だったり、コロナのことが不安だったりで来られない人は、そのタイミングでぜひ!