ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

素朴な喜び[2020年5月30日(土)晴れ]

「この週末はどこか出かけたいね」と、数日前から恋人と話していた。朝7時ごろに二人して起床。恋人が洗濯物を干したりしている間、私はベッドで『散歩の達人』6月号「ご近所散歩を楽しむ15の方法」を読む。パリッコさんとスズキナオさんがチェアリングを紹介していて、天気もいいので今日はチェアリングをすることに決める。

折りたたみの椅子や除菌ジェル、読みたい本など各自用意をする。そうしてさあ出掛けるぞ、とリュックを背負い、ソファから立ち上がった恋人の姿に違和感を覚えた。ズボンを履き忘れている。本人まったく気づいておらず、「お昼どうしよっか〜♪」と楽しそう。あまりにもナチュラルにそのまま出かけようとするので私もパニクって言葉が出てこず、「ちょっと、ちょっと〜〜!」みたいなことを言いながら彼の下半身を指差すしかできなかった。数秒ののち、無事恋人が気付いてくれて事なきをえたのだが、あのまま黙っていたらどのタイミングで気づくか実験したかった。「惜しいことしたなあ……」と笑いながら、環七沿いを歩く。

 

駅前の小さいパン屋とモスバーガーで食べ物をテイクアウトし、そのまま近くの公園へ。園内を散歩しながらどこに座るかぼんやり考える。けっこう整備された公園ということもあるのか、みんながレジャーシートを広げたり子どもが走り回ったりしているエリアが一番邪魔にならなそう。ちょっと変わった場所でやってみたかったけど、ひとまずこのエリア内で探すことに。

このエリアはちょっとした丘のようになっていて、傾斜がきつかったり、直射日光が当たったりして意外と良い場所が少ない。ところが、比較的傾斜のゆるやかな木陰が一か所だけ空いていた。近寄ってみると木の根がたくさん浮き出ている。レジャーシートだとごつごつしてしまうのでみんな避けているようだ。でも、私たちは折りたたみ椅子なので大丈夫。チェアリングの思わぬアドバンテージを発見してほくほくしつつ、椅子を広げる。頭上の木を見上げたり、食べ終えたバーガーの包み紙を入れた袋にアリたちが出入りするのを眺めたりして過ごした。

2〜3時間ほどこの公園で過ごしたのだが、「人がそこそこいて活気があるけど、密集しているわけではない」というベストな賑やかさ。丘の頂上付近の木と木の間に「Keep your social distance」と書かれた、2メートルの長さを示す赤い布が張られていたのだけど、だいたいどのグループも2メートル以上は感覚をあけられていたように思う。ただ、屋外でこのぐらいの混雑度合いだったらだいたいそのぐらい離れるよね、という距離感なので、神経質に意識しているわけではなさそう。宣言も解除されたし、逆に都心などへ出る人が多かったのだろうか。

 

適当な時間に切り上げ帰宅。ソファで休憩しているうちに眠ってしまって、起きたら2時間近く経っていた。公園で座って飲み食いしてきただけなのに、そんなに疲れたのだろうか……だとしたらどれだけ運動不足なんだろう。もともと体力がなく、コロナの前から人との飲み会でも23時を過ぎると眠くて黙ってしまうようなことがあったのだけど、拍車がかかっている。なんとかしたい。

起きても二人とも全然お腹が空いておらず、ちょっと体を動かそうかと近所の輸入食品屋へ。だいぶカジュアルに外に出かけるようになった。飲食店や通りもにぎわっている。輸入食品の店では忙しい日用に、すぐに作れる冷麺などを購入。

 

帰宅後も依然として食欲がなかったが、あまり遅くなるのは避けたい。冷蔵庫に余っていた葉もの野菜とトマトのサラダと、昨日作りすぎてしまったカレーをオートミールで食べる。カレーは食べたいというより消費したいという気持ちが強かったが、オートミールの可能性をいろいろ試したい気持ちがそれを後押ししてくれたという感じ。でも、食べ始めるとスパイスの香りのおかげか食欲が出てきた。小さめのボウルに一杯ぶん食べたあと、鰹節のだし汁としょうゆ少々でのばして和風カレースープを作って食べた。

 

23時半からは坂元裕二脚本のドラマ『Living』を見る。設定含めショートショートっぽさを感じる2本立て。恋愛もコロッケを揚げることも、生き延びる上では必要のないことだ。種の保存だけを考えたら誰かに惹かれることは時として邪魔になるし、栄養を摂取するなら面倒臭い料理をしなくてもいい。だけどそれをする私たちについて。

作家役の阿部サダヲ壇蜜が声を演じるどんぐりの会話を聞きながら、コロナの感染拡大で温室効果ガスの排出量が削減されたこととか、野生の生き物たちがのびのびと街中に現れるようになったこと、COVID-19と名付けられたウイルスが「生きようとする」ことから着想を得たドラマなんだなと思う。人間からすれば悪しき存在が猛威をふるってるとしか思えなくても、ウイルスが一つの生命体だと考えれば生き延びようとすることは普通のことだし、自分たちが覇権を握るために他の種を制圧することはホモ・サピエンス対ほかの種でも、人間同士でもよくやっていることだし。

そしてその制圧によってどうしようもなくひどい歪みがもたらされているのが現代で、その惨状をみると人間なんていなくなったほうがいいのではないかと絶望しそうになる。でも、だから作家役の阿部サダヲは2話の終わりで「今では現実のほうがひどくなってしまったから、人間には価値があるということを書きたい」と言う。そして恋愛やコロッケを揚げることを通して、その素朴な喜びを積み重ねていく。

1,2話は実際の姉妹・兄弟だった広瀬アリス×広瀬すず瑛太×永山絢斗のペアだったけど、3,4話では実際の夫婦が出演する。どんな物語になるのか楽しみ。