ヌマ日記

想像力と実感/生活のほんの一部

続かなくてもOK[2022年1月2日(日)晴れ]

オーガスタのオガちゃんに水をやり忘れていて、ふと見てみると土が真空パックで潰された肉のような、明らかにおかしい質感をしている。えっ、と思って焦って水をやると、ごぼごぼと大きな泡がわきたち、死んだ目のダルメシアンが出てきた。ダルメシアンはそのまま垂直にせり上がってくる。思いのほか筋肉質な体つきに本能的な身の危険を感じていると、その全身が土から抜け出た。まっすぐな棒のような姿勢で、下半身は魚の尾ひれになっていた。瞳が虚ろなので目が合っている感じはしないが、顔は私の方を向いている。恐怖に体を強張らせていると、ダルメシアンは棒のような姿勢のまま宙に浮き、高速でリビングを移動しはじめた。そこで目が覚めた。2022年の初夢だった。

 

かなり気持ち悪い夢だったな……と思いながら、「初夢 ダルメシアン」と検索する。良い結果がヒットせず、「初夢 悪魔」で検索し直す。夢に悪魔が出てくるのは「心の闇」や「性的な欲求」を意味しているそうで、本当に余計なお世話。まだ6時だったので二度寝したけど、今度見た夢も悪夢寄りだった。

 

シャワーを浴びてパソコンに向かう。吉祥寺ブックマンションとジュンク堂のコラボ企画で、棚主が新刊を選書して紹介するフェアに参加させてもらっている。私の担当は1月度で、今日からスタート。選書理由や、自分が著者インタビューをした記事のリンクなどをまとめたペーパーを配布する予定で、その最終チェックをする。ラフな文体で書こうと思ったのに全然うまくいかず、年末年始は毎日少しずつこの原稿を進めていた。見直すほど直したい点が見つかりそうだけど、今日中に設置しないといけないので修正はほどほどに。記事などをリンクしたQRコードのチェックだけ入念にやる。

売り場に貼り付けるポップも用意して、データをUSBに入れて家を出る。今年はじめての外出。ちょっと商店街を通ってみる。人通りは少ないけどお店はぽつぽつと空いていて、それだけで応援したくなる気持ちになる。コーヒー屋スタンドでカフェオレを買った。

 

新宿のキンコーズでペーパーを印刷し、のりとはさみを借りてポップ作り。厚紙に紹介文などを貼り付ける。吉祥寺へ移動して、ジュンク堂で書店員の方にあいさつののち設営。ポップの貼り付けなどは数分で終わって、ペーパーを一枚ずつ折って棚の隙間に挿す作業に時間がかかった。キンコーズで折ってくればよかった。

ブックマンションに移動し、今日のお店番の方と雑談しつつ、こちらにもペーパーを設置。何冊か本も補充した。

 

地元に戻ってきて、喫茶店で大晦日と元日の日記書き。帰り道で最寄りの神社に初詣。お守りのお焚き上げの炎が激しくて、しばらくぼーっと眺めた。帰ってきて、恋人と二人でオガちゃんに水をやる。悪魔はせり出て来ない。顔を近づけると土に水が染み込む音が聞こえて、淡い土の香りがする。自分はこの瞬間が好き。

 

夕食のあと、積読から『ベルリンうわの空 ランゲシュランゲ』を読む。自分や他人を大事にする気持ちを思い出す。語学の勉強についての記述がいくつかあって、ふと去年の忙しい時期からぱったり止まってしまった英語の勉強を再開しようと思った。読み終えて、さっそく自室で取り組む。頭のいつも使っていなかったところが刺激される感じ。
きっと忙しくなったらまた勉強が疎かになるんだろうなと思う。でも、どうせ続かないからと言ってやらないよりは、続かなくてOKの気持ちで三日坊主でもとりあえずやればいい。最近はそんな気持ちでいる。

 

以前も一日の目標としていたぶんのタスクをこなして、ちょっと休憩。あ、自分リセットされたな、という感覚があった。勉強しようと自然に思って取り組めるのは、余裕がある証拠だ。年末年始の四連休、ペーパーのテキスト執筆などけっこうやることが多くてしっかり休めていない気がしていたけど、大丈夫だったみたい。自分が回復していることに気づいて満足して、明日からの仕事始めも頑張れそうな気がした。

 

今日の新規陽性者数は84人、現在の重症者数は1人、死者0人。

軌道[2021年12月29日(水)晴れ]

午前中にいくつかの原稿の赤字を戻したあと、2日分の日記書き。それから古本や自分のZINEをまとめて吉祥寺へ向かう。今日はブックマンションではじめてお店番をする日。

 

お店へ向かうと運営の中西さんがいて、鍵の開け方やお客さんが来た時の対応のしかた、どこに何があるかをざっと説明してくれる。ただ、基本的にはこちらに任されている感じ。適度な余白があるとこちらも考えるから、参加している気になっていいなと思ったりする。

13時から開店。すぐにお客さんがちらほらと来る。地下にあるお店で、わかりやすい看板も出していないので入りづらいと思うけど、みなさんどこかで知って来ているのだろうか。地上からの光が差し込む中、熱心に本棚を見ているお客さんの様子を、というよりその光景をぼんやりと眺める。文フリやイベントとはまったく違う、小さな本屋らしい静けさ。スピーカーの音量を一段階下げた。

少しするとお客さんの数が増えてきて、知り合いも来てくれる。Kさんがちょうど吉祥寺に用があったそうで、顔を出してくれた。SNSではたまにやりとりしていたけど、顔を合わせるのはかなり久しぶり。ちょうどアーティストのNくんも来て、カウンターに座る私を見ながら「一日店長的な感じ?」と、かわいい表現。クリスピークリームのドーナツを差し入れてくれ、今日仕入れたばかりの千葉雅也『デッドライン』を購入してくれた。来客が重なってばたばたした時間だったので二人とゆっくり話せなかったのは残念だったけど、年末に顔を見て少し話すことができたのはうれしかった。

 

棚主さん(私と同じように棚を借りている方)も何人か訪れて、自分の棚の整理に来た「にちようだな」さんは私の日記本や編集した雑誌を買ってくださった。にちようだなさんの本棚も気になったが、店番をしていると意外と忙しかったり気が抜けなかったりして、じっくり見ることはかなわず。また今度しっかり見たい。

同じく棚主の「南と華堂」さんもいらっしゃった。南と華堂さんはブックマンションで1年間棚を借りたのち、日野市に自分の本屋さんを開いたという。「自分の店が忙しくてなかなか来られないから、来月で退去するんです」とのこと。猫本のフェアをするということで、猫にまつわる本をたくさん買っていかれた。

 

営業は17時までで、思った以上にあっという間。閉店間際のタイミングでは同い年のHくんや、AさんとNさんも来てくれる。締め作業をしたのち、Aさん、Nさんと忘年会。Nさんは昔吉祥寺に住んでいたそうで、その頃からある食堂に行ってみるも満席。別の店にふらっと入る。少しすると恋人も合流して、仕事の話、二人が引っ越した街の話、それぞれの来年のことなどを話す。

来年のことを聞かれて、「私は興味を持ちながら手前で踏みとどまることが多かったのだけど、最近になってそういう自分に飽きてきた」という話をする。その心境の変化が、こうしてブックマンションでお店番をしてみることにもつながっている。「目的地を決めて最短距離で目指すより、流されながらいくほうが性に合ってると気づいた。あと、それを受け入れたんだ」と言うと、「昔はもうちょっと頭でっかちだったけど、良い変化だね」「もう30やもんね」と目を細めながら返される。親戚のおじさんみたいだ。二人とは気づけばもう長い付き合で、彼らにしか話していないこともある。

今年を総括しようとしても、なんだかうまく言葉が出てこない。だけど未来について話す時、思い描く軌道は過去の軌跡からつながっていた。逆算的に浮かび上がってくるのが今年、なのかもしれない。

店に私たちしかいなくなるまで話し込んだ。吉祥寺には色々お店があるから、年末年始の買い物をしたいと思っていたのだけど(良いと聞いた茅乃舎のだしパックを、雑煮と年越し蕎麦用に買いたかった)、もうどの店も閉まっている。

 

今日の新規陽性者数は76人、現在の重症者数は1人、死者0人。

よい休日をお過ごしください[2021年12月28日(火)晴れ]

午前中は文字起こし。家を出たいと思っていた時間ギリギリに終わって、慌ただしく準備をして千葉行きの電車に乗る。年内最後の取材の日。

 

質問項目を見返していたら、左に座っていた男の人が電話をはじめた。股を開き気味に座っているから、その人の隣は空席になっている。静かな車内で声がよく響くけれど、みんな気にしないようにしていた。乗客たちとの微妙な一体感を感じながら、私も目の前の文字に集中しようとする。

「よい休日をお過ごしください」と、妙に丁寧な言葉で電話は切られた。電話の相手への応答だったのか、その人が先に発したのかはわからないけれど、自然な感じだった。少し空気が変わる。車内は再び静かになって、気づくとその人の隣にはサラリーマンが座っていて、また次に気づくとその人の席にはおばあさんが座っていた。

 

井戸川射子の小説デビュー作「膨張」を読む。『ここはとても速い川』収録のもの。静かに流れる文章の中に、これしかない、という表現があらわれて、そのたびに自分と主人公が重なっていく感覚におちいる。

車内は暖かくて、昨晩の眠りが浅かったこともあってすごく眠い。まぶたを閉じてみるけど寝ることはできなかった。諦めて目を開けるとちょうど大きな川をわたるところで、真上にある太陽の光を反射してぎらぎらと輝いている。年末の実感があまりないけど、乗客には今日が仕事納めの人もいるんだろう。

 

14時から取材。ある施設で働く4人に話を聞いたけど、今回はみなさん言葉巧みでエピソードも豊富。いいですね、と言い合いながら取材を終えた。

 

帰ってきて、夜はスズキナオ『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』を読む。前作『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』もそうだったけど、良すぎて胸がいっぱいになってしまい、一気に読めない。今作も途中まで読んでため息をつきながら本を閉じ、もったいないから、といったん別の本を挟んでいたのだった。

今日は本の真ん中あたりを読む。「モリで突いて捕った魚をイカダの上で食べる「たきや漁」が夢のよう」、「一軒の民宿を営むご夫婦だけが暮らす島ーー三重県志摩市横山へ」「優しい味ってどんな味?」などどれもいいのだけど、「私たちの7月20日ーーなんでもない日の夕飯の記録」という、いろんな人の7月20日の夕飯を聞いた回が特によかった。デイリーポータルZの記事*1を収録したもので、日記本をたくさん出している古賀及子さんと一緒に、寄せられた7月20日についてコメントしていくという構成になっている。

 

古賀 こういう、人がそれぞれ生きてるってことが泣けちゃう感じがありますね。それは別に特別な日でなくても、やっぱりいいんだっていうことですよね。

 

ーーうん、みんなの記録を分けてもらって、それがわかりましたね。

 

今日の新規陽性者数は46人、現在の重症者数は2人、死者1人。

*1:この記事でも十分に良いのだけど、加筆された一文が特にぐっとくるからぜひ本で読んでほしい

にぎやかに[2021年12月24日(金)晴れ]

底冷えする廊下へ出ると、ユーカリの香りが立ち込めていた。昨日恋人が買ってきて、今は私の部屋に置かれている。まどろむような甘い香りで、直線的な枝ぶりも良い。香りは枝葉が発しているのだけど、近くだと特別濃いというわけではなく、空間全体に混ざりながら漂っている。

 

1時間ほど部屋で仕事。会社に行くまで少し時間が余ったのでCoccoのYouTubeチャンネルを見ていたら、母親から届いたユーカリクリスマスリースを紹介していた。クリスマスに馴染みのある植物だということをはじめて知った。パンダが食べるものという印象しかなかった。と、書きながら違和感があって、調べてみたらユーカリを食べるのはコアラだった。パンダは笹だった。

動画ではピンクの造花やフラワーリボンでデコレーションされたリースを「ファンシー」と爆笑し、「私は現実主義者だけど、母と息子は信じられないくらいファンシーな世界で生きています」と笑いをこらえた声で紹介している。

Coccoは一般的には「情念系」と言われるけどそれは(表現においても、パーソナリティにおいても)一面的で、熱心に活動を追っている身からすると、昔から何かを手作りすることと笑えることが好きな人、という感じ。インターネットとは長らく距離があった人だから、コロナ禍になってTwitterのアカウントで新曲を投稿しまくったり、YouTubeチャンネルを開設したりしたのはサプライズではあったのだけど、そんなに意外ではない。作ることがまったく苦にならない人に見えるので、楽しんでやってるんだろうなと思うし、動画からも伝わってくる。

YouTuberとして成功することがゴールにあるわけでもないので、動画の内容や編集の仕方がフォーマット化されておらず、刺激や圧が少ないのも落ち着いて見られる。ファン以外が見た時に面白いかどうかは保証できないのだけど、そういうものがインターネット上のスペースにあっても良い。

まだ少し時間があったので、見逃していた短い動画をいくつか見る。お菓子や食べ物に関する動画が多い。拒食症で本当に死にそうになっていた頃を知っているから、そういう動画を最初に見た時はそれだけで泣きそうになったのだけど、当たり前にばんばんアップされるから最近はただ(おいしそう〜)と思いながら見るようになった。過去じゃなくて今を生きているんだからそれでいい。歴史があるから、時々こうして思い出すけれど。

 

10時過ぎに会社へ。少し仕事の続きをして、昼過ぎからみんなで大掃除。もう社員ではないけれど、今でもオフィスに出入りしているので参加している。大掃除はいつもならもっと後、仕事納めの日に行うのだけど、今年はいろいろあってクリスマスイブに決行された。ものすごく忙しい時に大掃除の日程が決まったため、ほとんど八つ当たりなのだけど苛立っていて、iPhoneのスケジュールには「大掃除(怒りの絵文字)」と登録していた。リマインダーでその通知が来て、誰に見られたわけでもないけど気まずい。吹っ切るように窓拭きと本棚の整理に精を出す。

時間が余ったので、会社の共有フォルダを整理する。終わってしまった連載、もうなくなったウェブ媒体などのフォルダをまるごと削除した。何かを断ち切ることで気分が高揚するのを感じて、その勢いで自分のパソコンやGoogle Driveの中もがしがし整理した。(これが……“Spark Joy”……?)と思う。しかしこんまり先生は「ときめくものだけ残す」と言っていたが、私は「残す」ではなく「捨てる」にときめいている。(ほなSpark Joyと違うかぁ)と、ミルクボーイの声が聞こえる。でも、断捨離をする人の話を聞いているとだいたい捨てる時にSpark Joyしている気もする。

 

18時くらいに終わって、会社でピザをオーダー。届くまで時間があったので、メールの返信をしたり、気になっていたウェブの記事2本(千葉雅也『最初のブラックジョーク』井戸川射子『サンキュー、だけをただくり返す』)を読んだりした。それから会社で1時間ほどみんなで飲む。家にチキンが待っているので、ピザは控えめに。

別れ際に「来週出社する?」と聞かれ、すると答えると「じゃあ…よいクリスマスを」と言われた。その先にはよいお年を、がある。

 

急いで帰って、恋人と夕飯。新代田にあるpootleというお店のチキン。先日下北沢の出版社で忘年会をした時に食べたばかりだけど、本当においしいので恋人に食べてほしくて、クリスマスを口実に使った。米油でからっと揚げた胸肉で、別添えのソースやライム、パクチーをかけて食べる。おいしい……10ピースセットなので食べきれず、残りは翌日に。このおいしいものが明日も食べられると思うと、それだけでわくわくする。明日は親しい友人たちとの忘年会もある。以降も取材とか、水曜日の吉祥寺ブックマンションのお店番まで外出の予定がずらっと続いていて、にぎやかに年末へと向かっていく。

 

今日の新規陽性者数は39人、現在の重症者数は2人、死者0人。少し感染者の数が増えてきた。今日は都内初となるオミクロン株の市中感染も出て、1月以降どうなるかまだわからない。

見える/見えない[2021年12月17日(金)曇り時々雨]

連日忙しかったり忘年会があったりして頭が休まらなかったのだけど、昨晩サウナに行ったので少しリフレッシュできた。朝から準原稿を原稿にしていく作業。病院に行く17時ごろまでを作業時間として確保していたけど、準原稿の時点でそれなりに書けていたので、昼過ぎには一通り終えることができた。全体をうまく俯瞰できていない気がするので頭から見直したいけど、それは来週でもいいような気がする。今日の予定していた作業分は終わらせたんだしと言い聞かせて、Things3のタスクのチェックボックスをタップして「完了」にする。

 

早めに片付いたので数時間がぽっかりと空く。とはいえ完全な余暇というわけにもいかず、明日やろうと思っていた企画案出しをする。お昼を外で食べて、帰ってきたら一気に血糖値が上がってしまったのかひどく眠い。パンツのボタンを外して、横になりながらスマホで企画のためのリサーチをする。

人から見たらだらけているようにしか見えないと思うけれど、仕事してないみたいな感じで仕事をすると、気分転換しながら作業も進められるので良い。でも、こう書くと自分が生産性の鬼になったみたいだ。仕事してるみたいな感じでサボってるくらいでちょうどいいのだろうと思いつつ、フリーランスだとなかなかそうもいかない。

 

16時くらいまでそうして(途中どうしても抗えず、20分くらい寝た)、出かける身支度をしてから自室のデスクでメールチェック。その時、ふと窓ぎわを見ると、長いこと使っていなかったワイヤレスイヤホンのケースの上のほうがまだらに白くなっている。

結露する窓際に置いていたからもしかして錆びた? と思って近づいて見ると、その錆が蠢いている。10匹くらいの小さな虫だった……一瞬思考停止したあとすぐに脳がフル稼働して、キッチンからアルコールスプレーとタオルを持ってきて退治する。そしてよく見てみると、窓枠にも本当に小さな、チリほどの小ささの虫たちが点在して、時々動いている。もう出かけないといけないし、メールもまだ返せていないのだけど、放置するわけにもいかず急いで掃除&退治をした。結露がひどいのに放置していたからか、拭くとタオルが真っ黒になり、自分でもちょっと引く。そしてタオルをじっと見てみても、虫の姿は見えない。それくらい小さいのだ。とりあえず窓枠は一通り掃除したけど、きっとこれで終わりではないだろう。

 

小さな虫が蠢いている姿はインパクトが大きく、傷つけられたような気持ちになりながら病院へ向かう。電車内ではずっとこの虫について調べていた。詳細はわからないけれど、どうやらチャタテムシの一種のよう。チャタテムシは体長1ミリ前後の比較的すばしこく動き回る虫で、屋内にいるものは羽根が退化していて飛ばない。古本や段ボールが好物。古本をよく買う人だと、本の上を小さな茶色い虫が動き回っているのをみたことがあるかもしれない。あの虫(の仲間)だと考えられる。私の部屋にいるのは1ミリもなくて、多分0.3〜0.5ミリほど。

調べていると「人に直接的な害はないけど、見た目が気持ち悪い不快害虫」との説明。言葉にするとあんまりだな、わかるけど……と思いながら、駆除の方法を読み込む。カビを餌とするので結露をしっかり掃除して、換気をちゃんとすることが大事、とのこと。たしかに、最近は寒くて私の部屋はほとんど換気をしていなかった。帰ったらまずは窓を開け放そうと思う。

しかしいくつか整合性がとれないところもある。寒いところが苦手で、古本や段ボールが好きと書いてあるのだけど、私の部屋ではワイヤレスイヤホンのケースや窓枠など、金属の上でしか見かけない。実際、窓枠は木の部分と金属の部分があるけど、木の上にはほとんどいない。イヤホンケースのほかにプラスチックの置物も飾っていたのだけど、その置物にもほとんどいなかった。金属の上って部屋の中でも一番温度が冷たくなるところだし、食べ物もなさそうなので、謎……。万が一本棚で大量発生したら掃除も難しいし、居場所を特定できればこちらも対策しやすいので不幸中の幸いだとは思うのだけど。

 

動揺が止まらないまま病院。完治にはあと少しかかるもののきれいに治っているそうで、「これで最後でもいいと思いますけど、どうします?」と先生。私としてももう困っていることは特にないし、年内で終わらせられたらすっきりするので今回で終了ということにする。

はじめて病院に行ったのは5月なので、半年以上通院していたことになる。ようやく終わったという気持ちと、どこか名残惜しい気持ちと半々。先生は本当にやさしく、いつも痛みや術後のことを最大限考えてくださったので本当に感謝している。だけど思い出話を交えながらあれこれ話すのも重いのかなあと思って、「今までありがとうございました」と言って深く頭を下げるくらいに留める。でも本当は菓子折りとか持っていきたい。

 

薬局で薬をもらう。この薬を使い終えたら、治療終了ということになる。それなりに感慨深いのだけど、大量発生した虫たちのことが頭から離れない。アッパーとダウナーが同時に去来し、胸のあたりがずーん……と重く沈んでいく。どうにか自分で自分を救いたく、JR新宿駅構内の成城石井で手巻納豆スナック(数年ぶりに買ってみた。一袋で1000円以上する高級品)とMikkellerのクラフトビールを買って帰った。

 

家に帰り、すぐに窓枠を見る。やはりさっき駆除しきれなかった虫が数匹。改めて観察しながら、本当に小さいなー、と思う。0.5ミリって、パソコンのキーボードの隙間やスマートフォンの画面に落ちていてもほとんど気にならないチリくらいの大きさ。小さすぎて、顔を近づけても脚とか触覚とかがわかるわけではないので、点がちょっと早く移動しているだけ、という感じ。ギリギリ視認できるから気になってしまうけど、もう少し小さかったら気付くことすらないのだろうと思うと、あまり神経質になるのもどうなんだという気がしてしまう。害もない虫みたいだし。

それに私は今日出かけるためにたまたまコンタクトをつけていたから気づいたけど、家では基本的に少し視力を落とした眼鏡で過ごしていて、眼鏡のままだったらいつまでも気づかなかった可能性が高い。見えると見えないの境界線も、そう考えると不確実なものだ。

そういえば、数週間前に一匹の虫を窓際の壁で見かけたのだけど、(この部屋で虫を見かけるの珍しいな〜)くらいに思ってスルーしていた。つまりあの時から繁殖していて、たまたま気づいたのが今日だった、という可能性が高い。だとすると、ますます神経質になるのは滑稽な気も。

星空と同じで、よく見ようとすればするほど見えてくる。先日の戸隠出張の最終日、山の中の駐車場で星空を見上げたことをふと思い出す。

しらみつぶしに一匹一匹を叩いてもきりがないし、結露をこまめに拭く、数が多いなと思ったら駆除する、を繰り返して発生しにくい環境を作っていくしかなさそう。

 

今日の新規陽性者数は20人、現在の重症者数は3人、死者0人。ウイルスは目に見えないけどそこにあるものの代表的存在。

みんなよくやってる[2021年12月9日(木)晴れ]

朝起きると、隣で寝ている恋人からLINEが2通届いていた。見てみると、宇多田ヒカルのニューアルバムと配信ライブのお知らせのURL。私が寝ている時にニュースを見て、伝えたいけど寝てるからとりあえず送っておいたのだろう。私たちの間ではこういうコミュニケーションのやりとりがたまにある。

宇多田ヒカルの新しいアルバムのタイトルは『BADモード』。いいタイトル、と思う。曇天の昼間のような光とか、ワンマイルウェアっぽいスウェットなど、作中で明言されていなくともこの時代の空気感を取り込んだものになりそうでとても楽しみ。

 

午前中に仕事をして、午後から銀座へ。たまたま取材が2件、銀座で重なっていた。1件目の取材を終えて徒歩で2件目の取材場所へ向かう道中(同じ銀座とはいえ1件目は新橋寄り、2件目は京橋寄りで、歩いて12,3分の距離だった)、かなり久しぶりに銀座来たなと思う。特に商業施設には入らなかったけど、街の雰囲気だけで銀座だなあと思う。

2件目の取材ははじめて関わるメディアだったので少し緊張していたのだけど、編集でライター仲間のSさんが入っているので不安はいくらか少なかった。ひとまず無事に終えて、Sさんと話しながら銀座駅まで歩く。千葉雅也、宮台真司あたりのことや、お互いに関わっているメディアのことについてなどざっくばらんに話す。微妙なニュアンスやバランスについて語ろうとすると、なんとなくどの言葉もうまくフィットしない感じがあってもどかしい。ただ、同じもどかしさをSさんも感じているように思えて、言語化はできていないものの共有しているものがあることに心強さを覚えたりもした。細部まで同じということはないと思うので、幻想かもしれないけど。

 

丸の内線のホームには上りも下りも電車が到着していて、慌ただしくそれぞれの電車に乗り込む。シートに座ってさっき話したこと、ライターの仕事のことなどをぼんやり考えていると、「みんなよくやってるよね」という感慨が胸の内に広がっていく。知名度のあるメディアでもギャラが安かったりするし、ウェブメディアだといきなり終了してしまうこともあるし。私も2,3年前と比較してみると、書いている媒体の半分以上は入れ替わっていると思う。特に思うのは、オウンドメディアって本当に見なくなったなあということ。10年代後半はメーカーやなんらかのサービスを提供している企業が運営しているオウンドメディアがたくさんあって、私もそういう媒体のいくつかで書いていたけど、今となってはゼロに近い。

自分がスランプの時なんかは同業者の活躍をみるとつい嫉妬したり、勝手にライバル視してしまったりすることもある。だけどそういうことじゃないよな、大事にすべきなのは。と、妙に正直な気持ちになった。

 

帰ってからは、整理できていなかった年末年始に向けた仕事のスケジュールを立てる。タスク管理アプリThings3にタスクを入れ、作業日ごとに振り分けていく。土日もやっていかないと終わらず、年末年始もあまりのんびりはしていられないことが発覚する。私はいつも年末年始はわりとしっかり休みがとれていたほうなのだけど、今年はスケジューリングをミスってしまった。

それにしても10月くらいから「10月は本当に忙しい」「そう思っていた10月よりも11月のほうが忙しい」「そう思っていた11月よりも12月のほうが…」と忙しさが更新され続けている。しかしそれでもこなせている不思議。1月こそゆっくりしたいけど、まあそううまくもいかないだろう。どうなることやら。

 

夜、10時近くになっても恋人が帰ってこないので、先に食べようと夕飯の支度。いんげんとねぎとみょうがのみそ汁、キャベツ塩昆布、麻婆豆腐。ちょうど作り終えて食べようとしたところで恋人から「今から帰る」とLINE。あ〜、と思いつつ食べる。食べ終わって少しゆっくりしていたところに恋人が帰ってきて、お互いの今日のできごとを報告。

その中でぽろっと、「なんか、二人ともかなりストレスたまってるよね」という言葉が出る。最近、なんとなく静電気のように苛立ちがぶつかりあってしまうことが多いと感じる。相手が悪いわけじゃないとわかっているから喧嘩になることはないものの、きっかけがあると勃発してしまいそう。ストレス発散したいけど、時間もあまりない。この感じで年末まで過ごすと思うと長い気がするが、そんなことはなくきっと一瞬なのだろう。今年もあと20日ほど。

 

今日の新規陽性者数は17人、現在の重症者数は3人、死者1人。

この方があたたかい[2021年12月4日(土)晴れ]

来週以降の土日はけっこう忘年会やクリスマス会などで埋まっていて、予定のない土日は年内だと今日が最後。変異株が出ているなか、そして年末で仕事も立て込んでいるなかで大丈夫なのかひやひやしているけど、とりあえず今日明日を有意義にすごそう、と思う。

午前中、笑えるラジオを聞きながら作業。お昼は出かける恋人と一緒に駅前でカレー。本当はそのタイミングで一緒に出かけられたらよかったのだけど、準備が間に合わなくて、ひとりで一旦家に帰る。日記本の発送準備をしたりしてから吉祥寺へ。

 

ここで書いていなかったのだけど、先月から吉祥寺にあるブックマンションで一棚本屋さんをはじめた。いろんな人が月額でお店の一角を借りられて、そこで古本や自分で仕入れた新刊、自分のZINEなどを売れる店。下北沢のBookshop Traveller、渋谷ヒカリエの「渋谷○○書店」など、同じコンセプトのお店はいくつかあるのだけど、私は今年の3月に吉祥寺ZINEフェスティバルに出た縁もあってここを選んだ。ZINEフェスの主催がこのお店と同じ方なのだ。

 

単純に本を仕入れて売るという流れを(いわゆる古本屋や新刊書店とはまったく違うものではあるけれど)体験してみたかったとか、はじめた理由はいくつかある。でも、一番大きいのは「コロナだからこそ対面で人と接する機会を設けたい」ということ。私は出不精だし誰かを誘うのも苦手で、放っておくとまったく人と会わないことが続いてしまう。ブックマンションは自分が店に立ってお店番をする制度があるので、これをうまく使えばいろんな人と会うことができるのではないかな、と考えた。いろんな人というのは知り合いもそうだし、知らない人も含まれる。まったく知らない人や、「友達の友達」くらいの距離感の人との出会いがコロナになってから本当になくなってしまって、自分の人間関係が広がっていかないことにも不安を覚えていた。どうしても見識が狭くなる気がしていた。

もちろんインターネットを使えば新しい人との出会いはいくらでもある。でも、偶然性はやはりネットよりもリアルな街の中のほうが強く働く気がする。それにネットで少し言葉を交わすことと、数分立ち話をするのとでは、立ち話のほうがその人の存在をちゃんと覚えられる。たたずまいとか、声のトーンとか、言葉以外の情報が多いからだろう。

 

今日は「紅茶と文学」という棚の方がお店番をしていた。挨拶をして、「最近借りはじめたんですよ」と話す。「どの棚ですか?」と聞かれて「54番です」と返すと、「お店の名前は?」と聞かれる。「Awesome Bookshelf(オーサム・ブックシェルフ)です」と答える。この店名、私の名前がおさむなのでオーサムというただそれだけなのだけど、改めて考えると初対面の人には伝わらないしめちゃくちゃ大風呂敷を広げている感じがする。横文字で書くと余計に……答える時も小声になりそうになってしまった。もともと小さな音を無理やりアンプで増幅させたみたいな、そんな声の出し方だった。

棚を見て、本を補充する。以前どんな本を置いたのかメモしていなかったのでわからないけれど、数冊は売れただろうか。しかし自分の日記本『消毒日記』は、3冊入れておいたものがそのまま残っていた。誰かが手に取って読んだような痕跡はあるのだけど、購入にはいたらなかったらしい。

こういう棚の飾り付けとかポップを用意するのが本当に苦手で、説明とかも一切つけなかったし、まあそりゃそうか、と思う。新しい日記本を置いて、「棚主の日記ZINEです 各1000円」と書いた名刺サイズのカード型ポップを設置する。カードの縁を蛍光マーカーで囲むなど精一杯の装飾性を発揮したつもりだが、明らかに棚が淋しい。見本誌を設置しつつ面陳するとか、もっと工夫が必要そうだ。12月29日にお店番をするので、それまでに少し考えよう*1。売れていたら補充しようと思っていた『消毒日記』はそのまま持ち帰る。

 

地元の駅に戻って本屋を物色。松岡宗嗣『あいつゲイだって』、スズキナオ『遅く起きた日曜にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』など購入。ここ2ヶ月ほど本を全然読めずにいたのだけど、最近気になる本ラッシュでわくわくしつつ焦る。

家で中島岳志『思いがけず利他』読了。相手のためを思ってした(利他的な)行動が気づくと「ぜひそうしてほしい」といった(利己的な)支配につながってしまう、メビウスの輪のような構造を解きほぐす。では利他とはいったいどんな状況でもたらされるのかを考えた時、中島さんは利他は受け取り手によって生み出されるものだとしている。「私たちは他者の行為や言葉を受け取ることで、相手を利他の主体に押し上げることができる」というのは美しいなと思った。美しいといえばこの本の装丁もそうで、さっき本屋で見て部屋の本棚に置きたいたたずまいだよなあと思った。kindleで買ってしまったことを後悔。

 

夕方まで仕事のゲラ読みをして、日が暮れた頃にプールへ。

夏に比べるとだいぶ人が少なくなった。去年の冬よりも閑散としている気がするけれど、何かあったのだろうか。あるいは去年の冬に盛り上がる何かがあったのか。軽く準備運動をしてから入水。水がぬるま湯のようにあたたかい。冬のプールは寒そうなイメージがあるから敬遠されがちだけど、今どきだいたい温水だからまったくそんなことはないのだ。寒くなればなるほど、温度が一定に保たれている温水プールのあたたかさは相対的に増していく。今ここにいる少ない人たちはそのことを知っている、と、秘密を共有するような仲間意識を抱きながら泳ぎ始める。今日は1500メートル。

ここのプールは今月の下旬から2ヶ月ほど、設備の工事のため休館になるという。老朽化しているからかいつも工事をしていて、今年の2月か3月にも1ヶ月ほど休館していた記憶がある。つい先日も設備の不具合でいきなり10日ほど休館していた。それは全然いいのだけど、休館中はどこで泳ごうかな、と思う。

 

今日の新規陽性者数は19人、現在の重症者数は2人、死者0人。

*1:年末、よければぜひ遊びに来てください。私の日記本を買わなくても、いろんな人の棚をみるだけで楽しいと思うので。